脱出(コナン&キッド)
カテゴリ★業火の向日葵パラレル
※元ネタに添いつつ色々端折って都合よく展開~(*_*;
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「毛利のお嬢さん、どちらへ」
「コナンくんがいないんです! もしかしたら地下に戻ったんじゃ──」
心配する女の子を引き留めて中森警部に託し、私が坊やを探すからと言ってその場を離れた。
・・ー・・・・・ー・・・・・ー・・
────坊ちゃま、小さな探偵がそちらに戻ったようですぞ。
「ええっ」
「キッド!!」
「って、もう来た?!」
寺井ちゃんの通信を受けてる最中(さなか)に、名探偵が駆け込んで来やがった。小さな体で炎をすり抜け、そばまで寄ってくる。
「『向日葵』は!?」
「残りはコイツだけだ。あと一枚はすぐ外れたんだが、コイツが変に嵌まっちまってて取れねえ!」
「どけ、キッド!!」
え?
振り向くと、名探偵はすでに数歩後ずさってバックルからボールを射出していた。
キック力増強シューズのパワー全開で、利き足を大きく振り上げる。
《《《 ズガァアアン!!!》》》
名探偵の蹴ったサッカーボールが炸裂した。熱風を吹き飛ばし、真っ直ぐ俺に向かってくる。
焦って床に倒れ込んだ。
金属棒のすぐ脇に着弾し、ボールは衝撃と共に弾けて割れた。
「あ、アブねえ! てめー俺を狙っただろ!」
「んなこと言ってる場合か! どうだっ?」
脱出ケースに収まった『向日葵』が、ガクンと震えた。レールが歪んだか、装置が壊れたのか。
やはりダメかと思った時、『向日葵』を載せた台車がすっと動き出した。そのまま脱出シュートの奥へ滑るように消えていく。
「やった!」「ヤッタァ!!」
名探偵が飛びついてくる。夢中でハグした。その小ささ軽さに今さらながら驚く。
ごうっ。
「あっ」
入り口付近の天井が崩落し、退路が断たれる。熱い。
「やばいぞ、キッド!」
名探偵の小さな手が俺の肩をぎゅっと掴む。
躊躇している時間はない。
「───寺井ちゃん、頼む!」
地響きが伝わってくる。
爆破した貯水タンクの水が、一気に地下へなだれ込んでいるのだ。
「な、何の音だ? キッド、まさか…」
「いいか名探偵、しっかり掴まってろ。絶対に離れるんじゃねえぞ!」
名探偵の頭と体を深く抱きかかえ、丸くなって激しい水流に身を任せる。
息が苦しくなり、そろそろヤバイと思ったところで水流が弱まってきたのに気付いた。
水面に顔が出る。通路が川になり、大量の水が鍾乳洞へ向かって流れているのだ。
「ぷはっ!」
「名探偵、大丈夫か」
「く、苦しい…」
「どうした? どこか打ったのか」
「お、おまえだよっ。力、少し緩めろっ」
俺か。
そういや力任せに抱き締めていた。慌てて力を抜く。
「火は消えたのか?」
「たぶんな。『向日葵』も今頃は地上に運ばれているはずだ」
「さっき誰に指示したんだ? 仲間が上にいるのか」
やっぱり聞いてやがった。探偵が聞き逃すはずないか。
「それは企業秘密。ちょっと待ってろ」
水が引けたフロアにたどり着いて名探偵を降ろした。そこから少し歩くと、貯水タンクに仕込んでおいた脱出用キットはすぐに見つかった。
ケースを開けて怪盗の装備を確認する。
「では、脱出と行きますか」
指を弾いて〝工藤新一〟から白い姿の怪盗へ戻る。
煙幕から抜け出し、怪盗キッドとして改めて名探偵に挨拶した。
「無茶で無謀な名探偵殿、本日はようこそ私のステージへ」
「なにフザケタこと言ってやがる。テメエの事だから逃走ルートは用意してんだろうが、この状況じゃあ…。それでも逃げられるってんなら、さっさと行け」
「見逃してくれるのはありがたいが、名探偵はどうする」
「どうもしねえ。助けがくるのを待つか、この体なら脱出シュート伝いに出られるかもしれねえ。大丈夫だ」
言葉は強気だが、長く息を止めていた影響か、心なしか名探偵の目が虚ろだ。
「強がりもほどほどにしろ。外気が吹き込めばここは一気に崩れる。それだけじゃない、下手すりゃ湖の水も流れ込んでくる。そうなりゃ貯水タンクどころの水量じゃない。とても助からないぜ」
「だからオマエは早く逃げろって言ってんだよ! オレはあきらめねーからな。絶対脱出してやる…、何すんだ、キッド!」
ジタバタ暴れる名探偵を抱っこして、ベルトを使って手早く胸に固定した。
「降ろせキッド!」
「押し問答している時間も惜しいんでね。しっかり掴まれ。空気抵抗を抑えるのに協力しろよ」
「無理だ、火事で気圧が下がってんだ。オマエ一人だってちゃんと飛べるかどうか───」
「怪盗を見くびらないでほしいね」
どこかで、何か大きなものが動く気配がした。
閉ざされた地下空間に、ヒビ割れた岩の隙間から勢い良く外気が吹き込んできたのだ。
飛び出そうとした通路の足下が、大きく割れた。
真っ暗な中を墜ちてゆく。
───待っていた〝風〟だ。
いける。
「飛ぶぞ、名探偵! 手を離すな!!」
崩れ落ちて重なった岩の隙間をかいくぐると、なだれ込んだ大量の水で押し上げられた地下の空気が翼に力を与えてくれた。
「キッド、前!」
落石。跳ね上がった大量の水が迫る。
「どこだ、出口は──」
波と落石を避けながら、目標を探す。しがみついてくる名探偵の温かさが不思議と冷静さを保たせてくれた。
「あった!」
岩の壁から陽の光がキラリと覗いている。
目の前にさらに大きな波が迫っていた。避けてる間はない。
ワイヤーの射程ギリギリ。届くか。
《バシュッ》
放つと同時に水を被る。
「行っけーーー!!!!」
手応え。引っ張られる感覚に、無意識に叫んでいた。
「ふぃ~、間一髪だったぜ。この貸しはツケにしとくからな、名探偵」
空に飛び出て、ようやく一息ついて話しかけたが名探偵の反応がない。
見ると、名探偵は気を失っていた。
小さな体に続けざまに大きな負担がかかったせいだろう。
遠く名探偵の名を呼ぶ子供たちの声が聞こえている。
こっちを見つけたようだ。
眼を閉じたままの名探偵を木の幹に寄りかからせた。
さっさと退散しないと中森警部が来てしまう。
『向日葵だ』と騒ぐ子供たちの声が、湖の方から聞こえてくる。
おそらく『向日葵』は地上に出る直前、鍾乳洞の崩落に巻き込まれたのだろう。しかし万一のために鈴木財閥が威信をかけて用意した特殊強化製ケースに守られ、中に含まれた空気の浮力で上手く湖上へ浮かび上がったに違いない。
「なぜ『向日葵』を守った…? お前になんの得がある」
「───人が悪りぃな名探偵。気が付いてたのか」
立ち去ろうとして不意に問われ、俺は振り向かずに答えた。
「見せてやりたい人がいたんだよ、どうしても。あの『芦屋の向日葵』をな」
・・ー・・・・・ー・・・・・ー・・
山を渡る風に乗り、白い翼は瞬く間に小さくなった。
キッドの名を叫ぶ中森警部の声も、森の木々に吸い込まれるように消えてゆく。
蘭や元太たち、みんなの声が近付いてくる。
オレは大丈夫さ。怪盗が庇ってくれたから。
少し…ほんの少し、疲れただけ。
オレは木の幹に寄りかかってもう一度眼を閉じた。
───キッドとキッドの仲間は、ある女性のために人知れず『芦屋の向日葵』を守ったのだ。
すべての咎を受けることさえ厭わずに。
いつか…中森警部には、この話をしよう。
警部なら、解るだろう。
怪盗キッドが、あの業火の中で独り『向日葵』を救い出すために闘っていたことを。
キッドがオレをきつく抱き締め、地中からの脱出を成し遂げたことを。
解ってくれるだろう……。
20151004
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※ムムム。考えてたのとビミョーにずれましたがupしちゃいました。さらにまたしてもチャーリー警部がいない&真犯人はスルーです(*_*;
※そしてカテゴリ『業火パラレル』作っちゃいました。インターセプトも平行してちびちび進めてはいるんですが、なかなかupにいたらず…とほほー。
●拍手御礼!
「ミラクル・キッド」「森の中」「下弦の月」「返り討ち」「儚い影」さらに カテゴリ★インターセプト各話 へ、拍手ありがとうございました(^^)/
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