告白~風に消えた怪盗~(白馬×キッド)《3/3》R18
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〝パンドラ〟の炎が尽きる。
僕は黒羽を捕まえた。迷いも、畏れも、何もかもかなぐり捨て、黒羽を抱き締めた。
「白馬───」
僕を押し留めようとする黒羽の腕を抑え、その言葉を奪う。押し包んだ唇の奥に小さな舌先を見つけると、僕は完全に我を失った。
霞む視界に、白いマントがひろがる。
僕らはその上にもつれるように倒れ込んだ。
何かが落ちて転がる音。
おそらく怪盗のモノクルだろう。
僕は黒羽を失いたくない一心で、懸命に黒羽をかき抱いた。
細い喉元にキスをする。
襟元から匂い立つ温もりに、頬を押し付け、僕は深く息を吸い込んだ。
あ───と黒羽が吐息を漏らす。
熱が高まる。
今ここで手を離せばきっと君は消えてしまうだろう。
僕からだけではない。〝僕らの日常〟から。君を取り巻くすべてのものから。
君は独りで遠くへ行ってしまう。
そんなのは、いやだ。
僕は。
いやなんだ。
「黒羽くん…僕は探偵です。しかし、詰まるところは一介の高校生に過ぎない。怪盗キッドの正体を知ったからといって、誰に告げるつもりもありません」
「……」
背けていた顔を黒羽がこちらに向ける。
瞼が開かれ、蒼い瞳が僕を映すのがわかった。
「僕の目的は君を見つけることだった。真実の君が欲しかったのだ。だから」
だから。
やっと見つけた君を、やっとこの腕に抱いた君を、放すことなど出来ようはずがない。
「どこにも行かないと、誓ってくれたまえ───黒羽くん!」
黒羽は目を凝らして僕を見つめていた。僕の真意に戸惑うように。
「君はすべてが終わると言った。しかし、そうじゃない」
ぽたりと雫が黒羽の頬に落ちる。
雫は僕の目から溢れていた。とても止められない。雫は零れては黒羽の頬に落ちて伝ってゆく。
「終わりなんかじゃない。これから始まるんだ、僕らは」
僕と君は。
それ以上言葉に出来ず、僕は唇を噛んだ。
情け無かった。
これほどの激情を自分が抱えていたとは。これほど、君を求めていたとは。
これが僕の真実なのだ。僕の告白なのだ。
この想いを失ったら、僕は僕ではなくなってしまう。
「僕を一人にしないでくれたまえ、黒羽くん。どうか。どうか…!」
〝白馬〟
黒羽が僕の名を囁く声が聞こえた。
そう思った。
密やかな黒羽の吐息が、僕の鼓膜を震わせたと。
頬に伸ばされた指先を掴み、僕は黒羽の手から怪盗の手袋を外した。
そうだよ。僕は…
僕は、君がほしいのだ。
真実の君が。
すべてを取り払った、君の生命そのものに触れたい。
どんな罪も怖くなどない。
僕が怖いのはただ一つ。
君を失うことだ。
君がいない世界だ───。
風に吹かれ、髪が揺れている。
そう気付くまで、どれだけ時間が経過したのか分からない。
僕は黒羽を強く抱いていた。
黒羽の髪に指を通し、何度も口付けた。吐息一つも逃したくなくて。
裸の背を引き寄せ、互いの熱が一つに溶け合う奇跡に没頭した。
脈打つ黒羽の息吹き。震える肌の滑らかさ。
細い肩が頼り無くて、僕は歓びと切なさの狭間に想いを迸らせた。
痺れるような瞬間。
放したくない。
月が、美しかった。
夜空は高く、僕たちをただ静かに包み込んでいた。
君は一人じゃない。
僕は呟いた。自分自身に言い聞かせるようにして。
怪盗は消えた。
夜空の風に吹かれ、消えたのだ。
残ったのは、君。
君と僕だ。
一つになった僕たちだ。
だからどうか。
僕の願いをきいてほしい。
僕のそばに…いてほしい───。
肌寒さに目を開けると、夜が明けかけていた。
藍色から紫へ変わりゆく空。
西の空にはまだ白く丸い月が残っていた。
だが、屋上には既に僕しかいなかった。
指が動かない。
乱雑に羽織っていただけのシャツのボタンを留めようとして、うまく出来ずに僕は手を握りしめた。
落ちていたはずの怪盗のモノクルを探したが、どこにもなかった。
風に消えた怪盗の痕跡は、僕の手のひらに微かな温もりの記憶として残されただけだった。
空が白々と明けてしまうまで、僕は立ち上がることが出来なかった。
・・・・・・・・・・・・・・・
よほど休もうかと思ったが、なんとか自分を奮い立たせて登校した。
いつもと同じ朝。
呆れるほど平和な教室。
だが、彼だけがいない。
僕は自分の席に座り、机にひじを着いて待っていた。
目を閉じて。クラスのみんなの気配を感じながら。
彼が現れることだけを願って。
やがて始業時間が近付き、予鈴が鳴った。
寝不足でチャイムが頭に響いてぼうっとなる。
目が、開けられない。
現れない彼を、空いている彼の席を確認する勇気がなかった。
目に涙が滲みそうになる。
情け無いが、堪えられそうにない。
僕は席を立った。
彼の席を見ずに、教室を出ようとした。
「……」
扉を開けようとして、僕は手を止めた。
教室の扉の向こうに人影が見える。
教室が静まる。
ガラリと、扉が開いた。
「なんだよ、白馬。教室入れねえじゃん。どけよ」
「……クラスメートに最初に言う言葉がそれですか、黒羽くん」
「え?」
「朝の挨拶ですよ。まずは〝おはよう〟でしょう」
平静を装ったつもりの僕の声は完全に掠れてしまっていた。
肩を小さく竦めた黒羽が僕を見て微笑む。少しばかり腫れぼったい目をして。
〝おはよーっ〟という、いつもの声が教室に響く。
僕の大好きな明るい君の声が。
僕らは真実を手に入れた。
何でもない日常。続いてゆく毎日。
それこそがかけがえない宝物だということを、知ったのだ。
20140927
20141001(再アップ)
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※説明不足・詳細省略の書き逃げですみません。タイトルにR18表記するほどでも…ですが、一応(汗)。これはこれでハッピーエンドのつもりです。幸せ白快パラレルの一つということでご容赦を~(*_*;
[26回]