April fool(白馬×キッド)
※季節はずれ?ですみません。キッド様登場シーンのパロ。
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『まあ、こんな真夜中に何事でございますか、坊ちゃま』
「すまない、ばあや。もう寝ていたかな。ちょっと調べ物を頼みたいんだ」
『構いませんですよ、坊ちゃまのためでしたら。それで何を調べればよろしいのでしょう』
「怪盗1412号のことだ」
駆けながらだから、息が切れる。僕は一息付いて続けた。
「移動中なんだ。今からその怪盗に会いに行くから、知っておきたい」
『会いにって…居所をご存知なので? 相手は盗賊でございますよ 』
「ははは。まぁ、そいつの〝通り道〟なら見当がついてる。今夜これから怪盗が姿を現すはずだ」
『でしたら警察にお知らせした方が』
「直接会ってみたくなったのさ。興味深い予告状を送りつけてきた怪盗にね」
「ここだ。HYDE CITY HOTEL、この屋上しか該当の場所はない!」
刑事が張っているのは分かったが無視してホテルへ入った。遅く戻った宿泊客だと思うだろう。
星空が美しい。屋上に出て南西の方角を見渡した。
東京にしては今夜は大気が澄んでいる。夜風はひんやりと感じるが、身震いするほどではない。
「…ああ、ばあや。」
『坊ちゃま、インターネットの情報だけですので信憑性は不明なのですが』
「かまわない。教えてくれ」
『怪盗1412号はかなり謎に包まれた人物のようでございます。最初に彼が出没したのは18年前のパリ、その10年後忽然と姿を消し、死亡説が流れておりましたが…さらに8年後の今、再び復活し現在は主に日本で活動しているようでございます』
18年前。仮に当事20代だったと仮定しても、いまは40代になるという事か…。
「それで、他には」
『彼を称する形容詞は数多く〝現代のルパン〟〝月下の奇術師〟…ですが、最も世に浸透した通り名がございます』
「通り名?」
『はい。各国の警察を子供のように手玉に取る怪盗1412号をある小説家が手書きの1412の数字を洒落てこう読んだんだそうです…K、I、D、と…』
「〝KID〟?」
一陣の風が吹き抜ける。
僕は耳に当てたスマートフォンを握りなおした。
ばあやの声が一段低くなった。一語一語噛み締めるように発せられる言葉が伝わってくる。
『はい。そのように……怪盗1412号、人呼んで』
───ヒュオォォォオオォォ……
不意に背に覚える怜悧な気配。何かが風に棚引くような音。
ばあやの声を聞きながら、僕はゆっくりと背後を振り仰いだ。
バサ、バサ、バサ────。
『人呼んで、怪盗キッド!』
闇の静寂を壊さぬように…彼は静かに僕の眼前に降り立った。
何もかも見透かしたような…不適な笑みと共に…。
『坊ちゃま、どうかなさいましたか?』
「大丈夫だよ。ありがとう、ばあや。おやすみ」
礼を言ってばあやとの通話を切り、僕は怪盗に向き合った。
怪盗は軽く左手をズボンのポケットに差し込み、靴音を響かせて僕の方へ歩み寄ってくる。
隙のない身のこなし。
モノクルと逆光で顔ははっきりしないが、予想よりずっと若い。
30代……20代……。いや、もっと───?
「今晩は。こんな時間にこんな所で何をなさっておられるのですか」
声も若い。
もしかしたら僕と同世代ではないだろうか。
「君が怪盗キッド…だね」
「はい。あなたは? 私の暗号を解いて下さったのですか」
「僕は白馬探、探偵だ。日本での実績はまだないに等しいがね。君の暗号はなかなか興味深いものだった」
「お褒めに預かり光栄です、白馬探偵」
「この通りタイムリミットに駆けつけるのがやっとだった。警察には知らせていない」
怪盗が首を傾げるとモノクルに付いた紐飾りが揺れた。先に印されてるのはクローバーか。
「警察に知らせようと思えば直前でも出来たはずです。なぜそうされなかったのですか」
怪盗は微笑んでいた。
不意に鼓動が跳ねる。まるで心臓に直接触れられたかのように強く。
僕は食い入るように怪盗の姿を見つめていた。
シルクハットが目元を隠し、揺れるモノクルの飾りは屋上のライトに映えてキラキラと輝いている。
風に緩く膨らんで棚引く白いマント。
それは漆黒の夜空に淡く滲む、白い幻影のようだった。
怪盗の輪郭は朧で儚く、見据えていないと消えてしまうのではないかとすら思える。
僅かに幻ではない判ずる事が出来るのは、ふわりと跳ねた栗色の髪と華奢な首筋だけ。
ブルッ。ルルルル…───
「!」
胸ポケットの振動に驚き、着信音に僕はもう一度驚いた。
怪盗から目を逸らさずにスマートフォンを取り出そうとして、慌てて上着の襟に引っかけた。
あっ!?
点滅しながら屋上の床に落ちたと思ったスマートフォンが、糸を引くように真っ直ぐ宙を滑ってゆく。
二つ瞬きをする間に、僕のスマートフォンは怪盗の白い手袋に収まっていた。
「ああ、ばあやかい。どうした? ああ。ああ、大丈夫さ。何事もない、もう帰るところさ。迎えはいらないよ。ノープロブレム。ありがとう。ではおやすみ」
僕はポカンと口を開け、呆気にとられてその通話を聞いていた。
話しているのは怪盗だが、その声は僕のものだったのだ!
自分の声を客観的に聞く機会はあまりない。しかし着信の相手がばあやだったのは間違いなく、おそらくさっき電話を切った後、ばあやが僕を案じてもう一度電話をかけてきたことは想像に難くなかった。
ばあやは今の通話の相手は僕だと信じただろう。
「…たいしたものですね。怪盗キッドは変装の達人と聞き及んでいましたが、声までこうも他人に似せることが出来るとは…」
「恐縮です。白馬探偵、もう少しお話していたかったのですが、そろそろ邪魔が入りそうですので…スマートフォン、お返ししましょう」
下手で投げてよこすのを受け止めた。
さっきはいったいどんなマジックで僕のスマートフォンを引き寄せたのだろう?
「何も盗らずに?」
僕の声は少し上擦っていたようだ。怪盗が微笑む。
いや…不敵に笑っている。
「予告状の始めにあったはずですよ。~April fool~ってね!」
怪盗が体を返す。駆け寄ろうとした僕の行く手を、白閃が遮った。
これが閃光弾か。しかし自然な動きしかしてないのに、どうやって発光させたんだ?!
目が再び闇に慣れる頃には、怪盗の気配は完全に消えていた。
屋上出入り口から機動隊員を引き連れた中森警部が現れる。苦虫を噛み潰したような顔、とはこういうものか。
中森警部から一通りの説教を聞いている間、僕は怪盗が白い翼で飛ぶところを見られなかったことに落胆していた。中森警部は怪盗が夜空を白い翼で駆け抜けるところを何度も追い掛けてきたそうだ。
「うらやましいです、中森警部」
なんとはなく、そんな言葉が別れ際に口をついて出てしまった。
中森警部の怒りに油を注いでしまったかと肩を竦めたが、中森警部は何も言わなかった。
ただチラリと目だけで僕を振り向いた。
〝おまえもか〟……。そんな目をして。
これから怪盗との知略を尽くした闘いが始まる。
『僕も引くつもりはありません!』
とうに階下へ消えた警部に向かって、心の中で僕は叫んでいた。
2017020
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※ちょっと未整理ですがup(*_*;
※April foolのコナンくんとキッド様の邂逅シーン大大大好きなんですが、あれを試しに白馬くんバージョンにしてみたら…という思い付きの単純なパロディでした(汗)。冒頭は、まんま阿笠博士をばあやさんに置き換えて、後半はコナンくん&キッド様の名セリフをパクるのは気が引けたのでテキトーに変えましたー(^_^;)。
●拍手御礼
「閃光(改)」へ 拍手ありがとうございました~(^_^)ノ
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