危弁《1/2》(白馬×快斗)
※前回『絶体絶命』のフォロー編のつもり…だったんですが、フォローになりそうにな~い(x_x)。
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僕はずっと考え続けていた。
昨夜なぜ高層ビルの屋上に黒羽快斗が現れたのかを。
今日はよく晴れている。
普段と変わらぬ校内。
こうして穏やかな日常に身を置いていると、昨夜起きたことすべてが夢だったような気さえしてくる。半日前の出来事とはとても思えない。
激昂のあまり自分を見失い、黒羽に掴みかかって─────この手で彼の首を絞めた、などということは。
窓際の席の黒羽を見やると、毎度のことだが呑気に居眠りをしている。熟睡しているのかと思うと、先生に指されて立ち上がり難なく解答する。
〝天才〟は始末が悪い。
しかし、もって生まれた天真爛漫さが彼がクラスで浮くのを防いでいる。幼なじみの少女がそばにいるおかげもあるだろう。誰とも仲良くやっているし、先生だって黒羽を可愛がっているように見える。
僕ですら。
そう、この僕ですらそうなのだ。
どこかで彼の信頼を得たいと願っている…。
認めざるを得ない。
どれほど欺かれ、どれほど傷付けられようとも。それは〝憎しみ〟のような強い感情と取り違えてしまいそうになるほどに。
僕は、黒羽に。
白い翼を隠し持つ彼に。
惹かれてしまっているのだ。
昼休み。チャンスは向こうからやってきた。
筋肉痛で階段を降りるのに四苦八苦している僕の脇を、あとから降りてきた黒羽がすり抜けようとした。僕は咄嗟に黒羽の腕を掴んでいた。
「なんだよ、白馬」
「掴まるくらいいいでしょう。脚が痛いんですよ、昨日の今日ですから」
「放せって」
「あっ」
黒羽に手を払われた僕は、踏ん張れず壁に背をぶつけて階段にへたり込んだ。ちょうど下の廊下を先生が通りかかる。
立ち止まった先生にどうしたと声をかけられた僕は、気分が優れない旨訴えた。すると先生は保健室まで僕を連れていくよう、黒羽に指示を与えてくれたのだ。
保健室は空室だった。中に入らず引き返そうとする黒羽の腕を、僕は縋るように掴んで放さなかった。
「ベッドで寝てろ」
「黒羽くん。二三、君に質問があります」
「質問?」
僕は黒羽の背後に手を伸ばし、ドアを閉ざした。
「なんだよ」
「君は昨夜どうやってあそこから帰ったんですか」
黒羽の表情が僅かに硬くなる。間近に立ちはだかり、僕は続けた。
「エレベーターが動くようになって、一緒に乗り込んだと思ったら、君はドアが閉まる直前エレベーターから降りましたね」
「屋上に携帯落としたかと思ったんだよ」
「また危弁ですか。僕は君が降りてくるのを下で待っていたんですよ。しかし君はそのまま姿を消した」
「ちゃんと降りて帰ったよ。だからここにいんじゃねーか。じゃあな。俺は戻る」
「屋上に何故怪盗キッドではなく君がいたのか。その理由を考えていたんです。可能性は限られる」
「言ったろーが、昨日」
僕はわざと音を立ててドアに鍵をかけ、黒羽の動きを封じるように手を付いた。しかし黒羽の表情はもう動かない。ポーカーフェイス。
「盗んだジュエルをキッドが月に翳す姿は、これまで一部の警察関係者に目撃されています。理由は不明ですが」
「へえ」
「昨夜は雲が多かった。僕が屋上に上った時刻には月は隠れていました。ではキッドはジュエルを月に翳すために、月が姿を現すのを屋上で待っていたのでしょうか?」
「………」
黒羽は黙して僕を見上げている。僕はさらに言い募った。
「それだけではないはずだ。月を待つだけなら移動したっていい。別の場所でも、あるいは空を飛びながらでも、キッドなら手にしたジュエルを月に翳す事は可能だろう」
「何ゴチャゴチャ言ってんだよ」
「つまり、僕が辿り着いた推論はこうです。キッドは屋上にいなければならない理由があった。言い換えましょうか。キッドは飛びたくても飛べなかった。飛べない理由があった。だから僕に対する危険を冒して」
「また俺がキッドだとか言うつもりかよ」
「例えばグライダーが故障したとか。或いはキッド自身に飛べない理由があったか。もしかしたら、その両方かもしれない。とにかくキッドは屋上から動けなかった。屋上に出る一つしかない非常階段からは僕が上ってくる。だからやむを得ず君は─────」
黒羽が僕から目を逸らす。開いた襟から喉元が見えた。だが、僕が付けたはずの指の痕がない。変装と同じ要領で隠しているのか。
「探偵のくせに言ってることこじつけじゃね? 昨日のおまえも相当無茶苦茶だったけど」
「確かに昨夜の僕はいただけなかった。君に醜態を晒してしまいました。本当に申し訳なかった。しかし」
しかし、君こそ僕を欺くためにかなりの無理をしていたはずだ。僕の推論が当たっているとしたら、今だって。
「屋上は風が吹き付けていた。僕もかなり消耗していたし、君を前に混乱もしていた。探偵としての観察力は完全に失われている状態でした。だから気付かなかった。君の体が熱かったとしても、僕自身体温が上昇していたから気付けなかった」
「…………」
「それでもエレベーターに乗り込む頃には落ち着きを取り戻していたつもりです。だから君は僕と一緒にエレベーターに乗るのを避けた。屋外ならともかく、エレベーターという小さな密室に入れば僕に気付かれると思ったからでしょう。そう、例えば……血の臭いに」
「どけ」
「!」
腹に拳が入った。しかし加減している。甘いというか、甘く見られているというか。
僕は黒羽の腕を捻って体を返し、背中向きに黒羽の体をドアに押し付けた。
危弁《2/2》へつづく
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※わぁ終わらない(汗)。果たして〝フォロー〟できるのか~(x_x)(x_x)。
●拍手御礼!「絶体絶命」「パーフェクトムーン」「魔法の塔」「不協和音」「海色の瞳」「鏡合わせの恋人」へ、拍手ありがとうございました。うれしッス~っ(^^)///
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