秋憂《2/3》(白馬×快斗)
※快斗くんサイド
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夕陽が落ちて暗くなると、なんだか急に落ち着かなくなった。
けど夜更けに家を出たのは、ただ〝なんとなく〟で、最初から白馬のところへ向かうつもりだったんじゃない。
俺は歩きながら意味もなく独り言を呟いていた。
『さっさと行っちまえってんだ』
『うぜーから、もう帰ってくんな!』
『ばかやろう』
『てめえなんか───』
ろくに前も見ず歩いていて、誰かとすれ違いざまに肩がぶつかった。
薄暗い灯りが点いた公園の前だった。もしかしたら最初から目を付けられていて、わざとぶつけられたのかもしれない。
とにかく俺は相手の顔も見ずにスミマセンと誤って、そのまま行き過ぎようした。そしたら、いきなり後ろから襟を掴んで引っ張られた。
たちの悪そうな連中だった。
よく聞き取れない言い掛かりを付けてきて、振り向いた俺に殴りかかってきた。
危うく拳をかわし、男の手を薙ぎ払った。
そのまま走って逃げればよかったんだ。
なのに、つい立ち止まって俺は相手を睨み返した。
スウェットにトレーナー、パーカー姿の二十代前半といった様相の男たち。
二人だと思ったら、いつの間にか背後に一人回られていて、俺は三人の男に囲まれた。こうした因縁を付ける事に馴れている。
それ以上詫びる気にならず、俺は無言のまま間をすり抜けその場を去ろうとした。
そしたら今度はいっぺんに伸びてきた手に口を塞がれ、腹を殴られ、膝裏を蹴られて、俺は呻いてアスファルトに倒れ込んだ。
三人に抱え上げられ、公園の東屋に引きずり込まれそうになって、俺は本気で身の危険を覚え、滅茶苦茶に暴れた。
振り回した手や足に手応えがあり、落とされたコンクリートの上に溜まっていた砂を掴んで目の前の男に投げつけた。
走って公園を後にした。
走って、走って、苦しくなっても走って、気が付いたら俺は以前一度だけ行ったことのある白馬の家に向かっていた。
殴られた腹と、捻られた腕と、東屋の床に落とされた時に打った肩と頭が痛かった。
『ちくしょう』
『なんだってこんな目に』
『テメーのせいだ!』
『テメーがハッキリしねーから、俺は───』
自分に腹を立てて罵りながら、自分の本当の想いに目を瞑っていられなくなる。
ハッキリしないのは、俺だ。
逢いたいのに、逢いたくないと思い込もうとして。
じっとしていられなくて、結局こんなところまで来てしまったのは───俺じゃないか。
白馬の部屋の窓だけが明るかった。
向かいの家の屋根に登って覗くと、カーテン越しに立ち上がる白馬が見えた。手に荷物を持って、部屋から出て行く。
本当に行ってしまう。
白馬の様子を確かめたらすぐに帰ると自分に散々言い聞かせていたのに、とうとう俺は白馬の部屋にしのび込んでしまった。
「怪我したのですか」
「何ともねえ。泥が付いただけ」
ヤバい。殴られたの、わかったかも。
ひとりで焦って、勝手に口を衝いて言葉が出てしまう。
「明日、何時に発つんだよ」「次はいつ、帰ってくんだよ」
目を凝らすように見詰めてくる白馬から、俺はつい眼を逸らした。
なにしてんだ、俺は。情け無い。こんなとこ一番見せたくない相手だってのに…!
「勘違いすんな。清々してんだ。てめーがいなくなりゃ、元通りなんだからな」
言えば言うほど墓穴を掘ってしまう。背を向けようとして腕を捕られ、白馬に引き寄せられる。
「僕に…逢いに来てくれたんでしょう」
「放せ!」
柔らかな光を湛えた瞳が俺を映して揺れている。
掴まれた白馬の手を振り解けない。さっきの連中の荒んだ手とは違う。温かな白馬の秘めた強い意志が伝わってくるようだ。
息苦しくなって、それが白馬に強く抱き締められてるからだと解って、とっくにガタガタになっていた頭のネジが弾け飛んだ。
だから来ちゃダメだって解っていたのに。逢えばもう止められないと解っていたのに。
さっきの出来事が、余計に不安をかき立てていた。
もう逢えなくなるかもしれない。
離れてしまえば、この膨らんだ想いもやがて消える。
俺は独りに戻るんだ。
それでかまわないと───思っていたはずなのに。
柔らかなものに唇を覆われて、白馬の熱と吐息が忍び込んでくる。
後はもう切なさに堪えられなくて、俺は夢中で白馬にしがみついた。
〝この想い〟が確かなものだと悟った刹那、俺たちを隔てていた境界は、あっという間に消え去った。
「秋憂《3/3》」へつづく
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※えーと…あれ?二回で 終わる予定が終わりませんでした(汗)。一回延長です(汗汗)。
★彌爲さま、お察しの通りでお恥ずかしや~(^^;)。そしてこのまま進めちゃいますー! 『探』呼びされない事については、やっぱり自然と目上感があるからかも…??ほんとは少しだけ年下?のはずなんですけどね?
●拍手御礼
「脱出」「返り討ち」「秋憂《1/2》」へ、拍手ありがとうございました(^^)///
[22回]