燠火《2/2》(XX×快斗)R18
※タイトル「おきび」。加筆修正・再改題、再々アップしました(x_x)。
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「おにーさんの名前も教えてよ」
少し躊躇ったが、俺は少年に自分の名前を告げた。彼女に呼ばれていた名を。
「俺は…〝ダイ〟さ」
「ここは?」
カイトに案内されたのは、通りから入ってすぐのマンションの一室だった。
「よくあるウィークリーマンション。この近くに用があって借りてたんだ。明日までね」
「………おまえ、何をしてる? 学生じゃないのか」
「コーコーセーだよ。〝ダイ〟は刑事か、それともヤクザってとこ?」
「フン」
それきり互いに口を噤んだ。
今を限りの、これが幻に等しい一夜だと解っているから。
偶然と言うには余りに刹那だ。だとしても、止められなかった。
シャワーで火照った体を抱き寄せると、〝カイト〟は俺から顔を逸らした。
『初めてか』とわざわざ訊くほど間抜けでもない。未熟さの欠片を覗かせる少年の、少年なりのプライドには俺も覚えがある。だから構わず抱き締めて、柔らかな唇に口付けた。
〝あっ〟と声を漏らして、カイトが体を震わせる。仰け反って無意識に逃れようとするのを抑えると、カイトは零れる涙を腕で隠した。
「なんで…、さっき、…あそこで、ダイに…逢っちまったんだろ…?」
「悔やんでるのか」
「てか、タイミング、悪すぎ…、ああっ!」
奥を衝くと、ギリッと締めつけられ、俺も唇を咬んだ。カイトは自分をコントロールできずに悔しそうに頬を濡らし続けている。
「あ、あと少し、数分…、数十秒…ずれてりゃ……あ、逢わずに…済んでいたのに────!!」
「息を吐いて楽にしろ、カイト。いくらかましになる」
「い、んだよ……っ、もっと、も…、強く…、う、あっ…!」
カイトの肌に、俺の髪が幾筋も流れ落ちて揺れていた。
熱い。
くすぶっていた俺の火種に、巻き起こった疾風が激しく吹き付けている。
穿ちながら屈み込み、カイトの顎を持ち上げた。
カイトが僅かに瞼を持ち上げると、睫毛の先からほろほろと涙が伝い落ちる。舌先で掬うようにしてのどを潤した。
「……しょっぱいな」
「な…に…、あ、あ…っ」
押し込んだまま、短いサイクルで揺らし続けていると、やがてカイトの貌が苦痛とは違う色に染まり始めた。
指を添え、熱を留めた若い幹を撫でてやる。びくんと痙攣するように全身を戦慄かせ、カイトは縋るように俺の肩に指先を食い込ませた。
「アア、アア…────ッ!!」
「カイト…」
カイト。おまえの孤独を、俺は知らない。俺の孤独も、おまえには解らないだろう。
それでも、俺たちは今、互いに互いを重ねることで傷みを分かち合っている。
瞬間(いま)だけ。
手を離せば二度と交わることはない。
だからこそ切ない。
哀しくて。愛おしい。
カイト…。
「起きた?」
目を開けると、身支度を整えたカイトが俺を見下ろしていた。
「ホー…。案外タフだな。歩けるのか」
「ちぇっ。まあ、その、走るのは…しんどいかも…だけど」
少しばかりばつが悪そうに目を伏せたカイトだったが、一息つくと切り替えたように表情を明るくした。
「あのさ、冷蔵庫に昨日買ったおにぎりとお茶入ってるから。良かったら温めて食べてよ」
「ここにはもう戻らないんだな」
「うん。用事は済んだし、家に帰る」
「そうか…。帰るところがちゃんとあるんだな」
「元気でね、ダイ。命を無駄にしないで」
「………」
俺から何を感じ取って言っているのか。俺の肩にある銃創を見たからなのか。
しかし話はもうそこまでと言うようにカイトはリュックを肩に掛けると、微かに横顔に笑みを残して背を向けた。
俺はそのまま黙って見送った。
カイトが部屋を出る気配を確かめ、もう一度ベッドに寝そべった。
なにもない、作り付けの家具と最低限の家電が備え付けられた標準的なワンルームマンションだった。出て行ったカイトの身元を推し量るものなどあろう筈がない。
通りの向こう。
横断歩道の向かいに立って、俺を見ていたカイトを思い出す。交差点のライトに照らされ、映し出された儚い影を…。
胸にくすぶる燠火(おきび)の芯だけが、昨夜の出来事が幻ではなかったと俺に伝えていた。
だが、間もなくその最後の芯も消えるだろう。
俺は独りに戻った。そしてカイトも同様に自分の〝孤独〟へ帰っていったのだ。
扉を開けると、途端に街のざわめきが押し寄せた。
髪を切ろう。彼女の想いへの手向けに。彼女への想いの弔いに。
そう思った。
20131223
20131225 改
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《補足なあとがき》
※怪盗キッドが出現した晩だった…とどこかに入れようとしたのですが、説明臭い気がして端折りました。
※快斗くんが新一にも白馬くんにも出逢う以前の《諸星大=赤井×快斗》単独パラレルでした~(*_*;
●拍手御礼
「囚人」「残り火《1/2》」へ、拍手ありがとうございました(^^)。
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