黒の鎖《1/3》(新快前提 ××→快斗)
※これも〝テストケース〟の一つです。妄想です。スミマセン…!(@_@)
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学校帰り、一人になって堤防に向かう道を歩いていたら、すぐ後ろで車が停まる気配がした。〝キミ〟と呼び止められる。
振り向くと白いRX-7の運転席から男が現れ、俺の側に寄ってきた。
年齢不詳。若く見える。
にこやかだが───油断ならない瞳。
「なんですか」
「君さ、名前は?」
悪びれず発せられる声。すらりと伸びた姿勢。浅黒い肌。
「………ナンパすか? 俺こう見えて男なんですけど」
そのまま行き過ぎようとした。男から目を離す。
襟にチクりと痛みを覚えた。
───どうやら、気を失っていたらしい。
頭が痛い。手が上に引っ張られる感覚。手首が固まって酷く痺れている。
目を開けて周囲を窺う。
がらんとして何にもない開けたフロア。背中側には大きな鏡。無様な自分が映っている。
窓と思しき方には大きな黒いカーテンが引かれ、ここがどこか今がいつか推測するヒントは得られない。ぐるりと見回したが、時計も調度も何もない。
かつてはダンススタジオにでも使用されていたのだろう。この造りで思い付くのはそのくらいだ。
ダンスの基礎練を行うときに手を置いて体を支えるためのバーに、俺は磔のように両手を広げてそれぞれ括り付けられ床に尻を着いていた。だから手首が痛い。頭の上に手を挙げた状態なので、余計に手が痺れている。
まだぼうっとしていたが、なんとか気を取り直そうと努めた。
なんでだろう。
どうしてこうなったのか。
どうして〝男〟に背を向けたのか。
後悔しても遅い。
甘かったのは確かだ。自分の身元は割れてないと思った。こんな目に遭うほどの危険は予想していなかった。
なのに───これだ。
迂闊さに唇を噛む。
手首にくい込んでいるのはコンビニでも売ってるような梱包用のナイロン紐だった。それが何重にもバーと交差するように巻かれている。結び目は見える位置にはない。かなり厳重だ。素手では解けそうにない。
何か鋭利なものはないか。
足を動かしてポケットの中を探ったが、携帯用の万能グッズがないことは感覚でわかった。ますますヤバい。ため息をつく。
マジックの縄抜けで使う太さのある紐とは違う。これではいくら手を捻ろうとも抜けない。
どうする。
相手の出方をみて、隙をつく以外に道はない。執拗に戒められた手首の痛みに、じわりと汗が浮き始めていた。
「やあ、目が覚めたかい」
「………」
「この状況で落ち着いてるね。黒羽快斗くん」
ドアから入ってきた男がにこりと笑う。後ろ手にキーを閉めたようだ。カチャリと小さく音が聞こえた。
男が持っているのは俺の学生カバンだった。生徒手帳を見たのか。
「手が痛てえんだけど」
「質問に答えてくれたら解きます」
「どこだ……ここ」
「間違えないで下さい、質問するのはぼくの方。だけどまず〝おまえは誰だ〟〝なんでこんな事するんだ〟って訊くのが普通の反応じゃないかなぁ 」
「訊いたら答えんのかよ」
「フフ。面白いな、キミ」
男が近付く。いいことが起こる予感はもちろんしない。ポーカーフェイスで精一杯冷静に見せかけ睨みつける。
「キミの携帯電話のロック解除コードを教えてくれないかな」
「……なんで」
「いろいろ知りたいから」
「勝手にデータ抜けばいいだろ。ダチのアドレス以外めずらしいもん入ってねえけど」
「ぼくを追っ払らおうとしてもダメですよ。黒羽……快斗くん、と呼ばせてもらおうかな」
「………」
「ロックを解除しないまま無理にアクセスしようとすれば中のデータは自動的にすべて失われる。そんなセキュリティーかけてんでしょ、どうせ」
「そんな高級なもんかけてねーよ」
「質問を変えましょうか。キミは高校生探偵・工藤新一とは、どういう関係なの」
「…工藤?……べつに、ただのダチだ」
「しらばっくれてもダメです。キミはこの二週間の間に工藤邸を三度訪れている。その何れもが深夜或いは未明から朝まで、もしくは半日籠もって彼と一緒に過ごしている。どうにも恋人同士の逢瀬のようにしか見えないけど、高校は違うのにどこで接点があったのかなぁ」
「そんなんじゃない」
「ではどんな?」
「だから、トモダチ」
「嘘はいけないね。身を滅ぼすよ」
すっと顔を寄せられて鼓動が跳ね上がった。何をされても、動けない。
「……〝ライバル〟だよ…はじめは」
「ライバル?」
「サッカーの。工藤とは何度か試合で」
「そうきましたか」
「他校だけど、仲良くなって、いろんな話したり」
「ふ。なかなか〝嘘〟が上手い。キミは……やはり修羅場を経験してるんでしょうね。さっきからぼくの隙を見つけようとしているようだけど、無駄ですよ」
男の手が喉に伸びる。はっとして顔を背けた。
男の指が喉から胸元に這うように移る。
「………凌辱された過去でもある?」
「……………」
震えが───止められない。
「顔が青いよ、快斗くん」
男は指先で俺の顎を持ち上げると、こう言った。
「ぼくは〝バーボン〟。どこかでキミに会ったことがあるような気がするんだ」
黒い鎖《2/3》へつづく
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