不法侵入《3/3》(昴×快斗)R18
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言葉ではなく、伝えたいこと。
それはわたしの漠然とした思いに過ぎず、つまりは言い訳でしかないのかもしれない。
少年の肌には打撲痕や銃創だけでなく、あちこちに痣や疵があった。細かな擦過痕まで数えたらきりがないほどだ。
しかしそれでもなお瑞々しくしなやかで、成熟する前の溢れるような若い魅力に満ちている。
この少年の存在自体が、わたしにとってはどこかに置き忘れてきた秘密の宝箱のように思えた。
庇護欲。…とは少し違うかもしれない。
とにかく、こんな熱情に溺れ、没頭してゆく己を自覚するのは久しい。
気付くとわたしはシャツの前をはだけ、喉の変声機を毟るように取り去っていた。
──熱い。
切なくて、焦れったくて、灼けるようだ。
息ができない───。
うなじから指先、足首や内腿まで体中を辿られ、嬲られ、ゾクゾクと震えが走る。
「目を開けたまえ、黒羽くん」
「…?」
沖矢…じゃない、この声は。
「いい子だ」
馬鹿にしやがって。なにが、いい子、だ。
どこまでもガキ扱いして。
俺は目を開け、目の前を覆う男を見た。
姿はやはり沖矢だ。
だが、沖矢じゃない。
シャツの胸元から覗いているのは、無駄なものを削いだ精悍な肌。
この男が、ただの大学院生なわけがない。
「快斗くん」
目が合う。呼びかけられた声に、弾かれたように体が跳ねた。
わけがわからない。
こんなに反撥してるのに。
抑え込まれて、体中弄ばれているのに。
それなのに、名前を呼ばれただけで。
いまにも…いってしまいそうだ。
懸命に工藤の顔を思い出そうとする。
「…!!」
吐息が耳朶にかかる。
保とうとした意識は、あっという間に吹き飛ばされてしまった。
傷に障ったのか、擽ったいのか、少年が顔を背け、身を捩って抗う。
その細い腰を辿り、抱えるように体を起こす。
少年の肌にも変化が顕れている。
わたしはさらに少年への愛撫を深くし───細心の注意を払い、その緊張を解していった。
明け方の眩い光が、カーテン越しに部屋に射し込む。
それが合図のように、わたしは自身で少年を奥深くまで貫いた。
完全に、一つになるまで。
(あああーーっ…!!!!)
絶叫したのだろう。
叫ばずにはいられないほどの衝撃に穿たれた。
苦しいだけじゃない。
欠けてしまった俺の何かを埋めるかのような、真っ赤に熟した熱量。
詰まらない強がりも、孤独も、プライドも、何もかもが吹き飛ばされる。
ただただ切ない。
苦しい。
何度も白閃が瞬いては、ふと緩む波に戸惑い、翻弄され、のたうち回る。
───〝助けて〟。
そんな言葉が、切れ切れの意識の端に過(よぎ)る。
これまで思い浮かべたことなんかない言葉だ。
誰にも頼ったことなんかない。
だけど… もう、もう。
本当に、堪えられない。
ああ。
頼むから、俺を。
俺を──〝 た す け て ・・・ !! 〟
───目が覚めても、まだ沖矢は俺を抱いていた。
もしかしたら、まだほんの数秒しか経ってないのかもしれない。
あんなに激しく果てたのに、また煽られて、また堪らなくて、掠れた声が勝手に喉から漏れている。
上か、下か、ここが何処なのか、いまが何時なのかも判らない。
宙を浮いているようだ。
煙草の香りがして、息ができなくて呻いた。
唇を塞がれ、咥内を侵されて呼吸さえ奪われる。
やっと解放されて喘いでいると、腰を掴んでぐるりと廻され、眩暈がしてまた唸った。
そして、背後からさらなる衝撃に襲われる。
溶けるほどに解された自分の一番弱い場所に、熱い楔を再び穿たれた。
目一杯埋め尽くされ、体の芯に直に触れられ、ほんの僅かな揺らぎにさえ反応し、叫んでしまう。
(ああっ…!!)
ぐっと掴まれた腰に沖矢の指がくい込むのを知覚した──直後、殴打するかのような強烈な律動が始まった。
「あ、ああっ!…ああっ! ああ…っ!!!」
指の先、頭の先、髪の毛の先まで震えてしまうような痺れと衝撃が何度も繰り返される。
気づかぬ間に、同時に前も弄ばれていた。
体内の最芯を衝かれ、身動きもとれず、なすすべなく追い責めたてられる。
想像を超える衝動に翻弄され続け、肌から火が噴くのではないかというほど熱く昇り詰めてゆく。
「はぁっ、…はぁっ、はあぁ…っ」
頭の中が真っ白になり、完全に到達すると──覚悟したのに、俺は不意に現実に引き戻された。
今度はまた仰向けに体を返されたのだ。
潤んだ貌を沖矢に見られるのが情けなくて、俺は顔を背けた。
体には力がまったく入らず、膨らみきった熱は蓄えたままだ。
「いい子だ」
またか。
睨み返そうとしても、涙が零れ落ちそうで出来ない。
唇を噛む俺の額に、沖矢の手が置かれる。
「もっと自分を解放してやれ」
「………」
「今だけでも」
白閃が瞬いた。
意識が飛ぶ。
何をされたのか、どこに触れられたのか、もう判らなかった。
俺は声にならない声を上げ、たぶん全身を震わせながら、到達していた。
・・・・・・・・・・・・・
「ったく。人のベッドで爆睡しやがって。どっから入った? いつから来てたんだ」
「………」
目を開けると、工藤が俺に話しかけていた。
ここは…? 工藤の部屋だ。
心臓がバクバクする。
フラッシュバックしそうな記憶を懸命に抑え込む。
───沖矢は…?
「…いま、いつだ?」
恐る恐る声を出した。
掠れていたが〝寝起き〟だから、さほど不自然でもない。
「もう午後二時だ。快斗、てめーもしかして夜中からずっとここで寝てたのか? 図々しいヤツめ」
「………」
頷いた。
俺は服を着ていた。たぶん、包帯も元通り巻かれている。新しいものが。
───黙っていれば、工藤が留守の間に何があったか、バレないのだろうか。
「アイツは…? 沖矢…」
沖矢の名を出すのはかなり勇気がいったが、工藤はあっさり答えた。
「昴さんなら出掛けてる。戻ってくるのがいつかはわかんねえな。快斗、昴さんが居ないんで泊まったんだろ」
「……うん」
心底のバクバクは収まらない。
どういうことだ?
明け方、沖矢は服を着て邸内にいた。
工藤の話では出掛けていた筈なのに、何か訳があって急きょ戻ってきたところに俺が出会(でくわ)したのだろうか。
何時間も沖矢に抱かれていたように思えたが、実際は一時の事だったのかもしれない…。
少し思い出しかけただけでぶるりと震えが走った。
ちぇっ、やり逃げかよ…。大人ってきたねえ。
まあ、いい。
俺は記憶に蓋をすることにした。
特に工藤が目の前にいる今は。完全にシャットアウトするんだ。
まだ眠いからといって、俺は工藤のベッドから降りずにシーツを被って丸まった。
工藤は呆れ声で買い物してくると言い、部屋を出ていった。
「オレん家だからって不法侵入も大概にしろよ。そのうち誰かに見つかって通報されるぜ」
───不法侵入。
沖矢にも言われた言葉だ。
甦りそうになる記憶に慌ててさらに頑丈な鍵をかける。
工藤が階段を下りていく気配がして、俺はまた独りになった。
このまま工藤と二人で過ごして、誤魔化しきるのはさすがに無理だろう。
痺れが残る重い体をのろのろと持ち上げて、やりたい放題やられた情けない自分の顔が窓に映るのをぼんやり眺めた。
さぞかしダサい顔が映るだろうと思っていたのに───何故か映って見えたのはサッパリしたような自分の表情だった。
その理由も、明るい陽の光に照らされている今の自分には少し解る気がした。
自分を縛っていた妙な拘りを、たぶん沖矢が無理やりぶち壊したんだ。
俺を、めちゃくちゃに翻弄することで。
そうして、凝り固まった俺のプライドを引き剥いだ…。
俺は頭(かぶり)を振った。
あれこれ考察するような事じゃないし、したくもない。
早く忘れたいから、やっぱり俺はそれ以上考えるのをやめた。
脚はガクガクして伝い歩きしないと動けなかった。
工藤が戻ってきたら、俺がいなくなってる事にスゲー文句言うのが目に見えてるけど。
このまま去っても大丈夫だろう。
沖矢は───あの男の正体はFBIの工作員だ。
証拠隠滅は、お手のものだろうから。
20190812
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※お粗末様です。タイトル「証拠隠滅」の方がよかったですかね…。まぁ目標は昴×快斗くんで、とにやくヤルこと!だったので、細部は気にせずさらっと読み流してくだされば幸い(?)です(..;)。
●拍手御礼
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へ、拍手ありがとうございました。
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