迫り合い《2/2》(新快前提 3/4組)
※脱線度の高い単独パラレル後編(汗)。新一視点。
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オレと快斗は大阪サイドの観客席の一番前に陣取った。
決勝が始まるのだ。どんな勝負になるのだろう。
服部と白馬の剣道対決は────。
試合は五人戦。
先鋒、次鋒、中堅、副将、大将だ。
服部も白馬も共に大将を担っている。
試合が進むにつれ、何とも言えない緊張感が漂ってきた。
引き分けを挟んで中堅までは1-1の互角。
次の副将戦は大阪が一本勝ち。
会場が大声援に包まれる。
2ー1となった大阪が優勝に王手をかけて断然有利になったのだが、もし大将戦で東京が勝って2ー2になれば……さらにもう一戦、五人のメンバーのうちひとりを出す代表戦に持ち込む事ができる。
勝負はまだ分からない。
大将戦で白馬が服部に勝てば、の話だが。
「工藤、なんか俺……緊張してきた」
快斗が客席前の手すりを掴んで身を乗り出す。
「ああ。ここから見る限り、白馬のヤツ落ち着いてるな」
「フツーに考えれば服部の方が実績もあるし強いんだろうと思うけど……」
「白馬の実力がハッキリしない分、服部はやりにくいかもしれないな」
服部と白馬がそれぞれ面と小手を着け、竹刀を掴んで立ち上がる。いよいよ大将戦だ。
「剣道って顔が見えねーから表情がわかんねえ!」
「どっちにしろ、オレらが出来るのはここで声援を送ることだけだぜ、快斗」
「そーだけど…」
蹲踞(そんきょ)から立ち上がる両チームの大将。審判の〝始め〟の声がかかる。
パアッと会場のライトがさらに明るく輝いた。
歓声と拍手が湧く。大会の決勝も大詰め、今日の大一番だ。
剣先の小競り合いから先手を打ったのはやはり服部だった。
小手─面の服部の連打を白馬がいなして互いの胴がぶつかり、鍔迫り合いに入る。服部が気合いと共に引き面を放ちつつ、間合いを戻す。
「早くて判んねえけど、当たってないの?」
「正確に入らないと一本にならないらしい。当たる位置だとか姿勢だとか…」
「白馬の方がリーチがあるからな」
「ああ。仮に技量に差がないとすれば、上背がある白馬の方が有利だろうな」
服部が攻め倦ねている────ように見える。
性格の違いが剣道にも出ていた。
服部が〝火〟なら、白馬は〝水〟といったところか。熱く攻める服部の打撃を、しなやかに最小限の動きで封じる白馬。タイプが違いすぎて、服部がいかにもやりにくそうだ。
短時間で服部が決めにいくかと思った勝負は、互いに攻め手を欠き延長戦に入った。このまま延長でも決まらなければ大将戦は引き分けとなり、大阪の優勝が決まる。
そう思った時、白馬が動いた。
面─面の二段攻撃。最初の面を竹刀で凌いだ服部は、次の面を引いて避け、体勢を立て直そうとした。
だが、そこからさらにぐんと伸びた白馬の剣先が、服部の面にギリギリ届いた。審判の白い旗が上がる。
延長戦終了間際に、白馬が一本を取ったのだ。
大歓声。番狂わせと言えるだろう。
これで大阪と東京は二対二のタイだ。
大阪の絶対的エースである服部が一敗を喫した事で、ムードは完全に東京に傾いた。
最後の代表戦で今度こそ勝負が決まる。
「工藤、代表って誰が出るんだ?」
「その日調子がいいメンバーか、普通はやっぱり大将だろうな」
「それじゃ白馬と服部の再戦? 服部のヤツ、カッカしてたらまた白馬にやられるぜ」
「いや…カッカはしてないみたいだ」
代表戦までの短いインターバルの間、面を外した服部は目を閉じて精神統一をしているようだ。
対する東京サイドも、やはり代表戦に出るのは白馬らしい。仲間に激励されながら、汗を拭っている。
服部も白馬の動きをようやく掴んできている。これまでだって似たような修羅場をいくつも経験している服部だ、タイになったからといって慌てることはない。一息ついて気持ちを入れ替え、代表戦は初っ端から本腰を入れて攻めてゆくだろう。持久戦になるほど服部が有利になるはずだ……。
ふと気が付くと、快斗の視線が白馬に向けられていた。
やはりクラスメート、なんだかんだ言っても白馬を応援してしまうのだろうか。
「クラスメートとして応援してんだよな?」
「えっ」
「白馬を」
「してねーよ」
「ウソツケ」
「服部も白馬もどっちも応援してるよ!」
赤い顔しやがって…快斗のヤツ。
普段来ることのないこうした場所を訪れ、普段接することのない世界に触れて感じるというのは、オレにとってはある種の刺激だし、それが知識の一つにもなる。
快斗はどうだか判らないが、少なくとも退屈はしてないようだ。
目の前で対戦しているのが服部と白馬だから、感情移入しやすいんだろう。実力は折り紙付きの服部に対し、身近な白馬に判官贔屓の気持ちが働いているのか。……だよな、快斗?
「ん、なんか言った?」
「いや。始まるぞ。やっばり大将の再戦だ!」
会場が再び歓声に包まれる。
両チームの大将が位置に着く。
背に付いた赤のリボンが服部、白いリボンが白馬だ。
〝代表戦、始め!〟
審判の声が響くと同時に白馬が竹刀を持ち上げた。
会場がワアッとどよめく。
「工藤、なにあの構え?!」
「上段だ! 白馬のヤツ、元々上段なのか?」
「上段…。かっこいい~!」
オレが振り向くと快斗はムニャムニャ誤魔化したが、聞こえたぞ、かっこいいって。くそ…白馬め。
代表戦は一本勝負だ。ここまできて白馬の上段がフェイクなわけはない。白馬自身も長引けば不利だと判っているのだ。
何度かの際どい応酬のあと、ぱっと二人が距離をとった。
互いの間合いを探り合っている。
緊張感がさらに高まってゆく。
「快斗、次の一撃で勝負が着くぞ!」
うおおーという気合い。服部が飛び出す。
瞬時に反応した白馬の竹刀が上段から鋭く振り下ろされる。
同時に響く打撃音、互いの気合い、残心。一瞬の迫り合いだった。
審判の旗が上がる。赤二本、白一本。
服部の飛び込み胴と白馬の面打ちはほぼ相打ちだったが、僅かに服部の胴の方が正確と判断されたようだ。
歓声と拍手。
大阪チームと東京チームの熱い決勝戦に、会場にいるすべての人々から賞賛が贈られていた。
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「うわあ、体がガタガタです。イタイぃ」
「なんや白馬、ちったあ見直したったのに、情けない声出しよって」
「もっと早く服部くんが決めてくれると思ってたんですよ。そしたら案外長引いたもんだから」
「おのれ、どういう意味じゃそら」
「よかったな~服部と白馬、仲良くなってさ!」
「どこがやっ、黒羽」
「僕は初めから仲は悪くないつもりですよ」
ケッと、そっぽを向いた服部が防具を担ぎ上げる。
「白馬、今日は一対一で俺たちの勝負はついとらん。機会がありゃまた手合わせしたる」
「是非…と言いたいところですが、遠慮しますよ。今日は断れなくて特別だったんです。剣道は、やはり僕には向いてない。しんどすぎます」
元気に手を振るポニーテールの彼女と並んで、服部は去っていった。
「なんでえ、服部の彼女来てたんじゃん」
「だろうな。来るなったって来るだろ」
「僕も迎えが来たようなので、ここで失礼します」
「お疲れ、白馬」
白馬が快斗に向き直る。
「黒羽くん……今日はありがとう。君がいてくれたおかげで、僕は実力以上の力が出せたんです」
「え……」
ああーおっほん! と、オレはでっかく咳払いをした。
オレの前で快斗にモーションかけるとはいい度胸だぜ、白馬!
黒塗りの車に乗り込んだ白馬を見送り、オレと快斗は二人になった。
「これからどうする? 工藤」
「腹減った。メシ食って帰ろうぜ……快斗んちに」
「ええ? 俺んち?」
ううんと少し考える素振りを見せた快斗だったが、珍しく頷いた。
「まあ、たまにはいいか」
「ほんとか!」
二人並んで歩き出す。
大空に広がる夕焼け雲が、美しく街を彩っていた。
20120212
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※うひぃーお粗末様です(*_*;
また近日、もすこしフツーの?3/4組なお話を考えたいです~。
[13回]