難敵(新一×キッド)
カテゴリ★こういうこと
※ムチャぶり探偵とオクテ怪盗のおかしな恋物語的シリーズ続編。キッド様視点で…(汗)。
――――――――――――――――――
今夜も邪魔をされた。
前回は俺が出し抜いたのでこれで対戦は4勝4敗のタイといったところだ。
だがしかし、実感としては九分以上俺はヤツに負けてる。
ヤツはいつだって俺の手を読んで先回りしてやがる。かと思うと最後の最後に登場してきて、まるで難癖つけるように俺の芸術的マジックを評論してみせ、俺が返したお宝をさも自分の力で取り返したかのようにカッコつけて決めゼリフを言いやがる。
〝真実はいつも一つ〟と。
そして……何よりいちばん頭にくるのは、ヤツが当然のことのように恋人面して俺を抱き締めることだ。
そう、ヤツは――高校生探偵・工藤新一は、俺にとって最もやっかいな相手であり、いまや最もリアルに〝出逢いたくないナントカ〟だった。
東都タワーの非常階段出口で工藤は俺を待ち伏せていた。あとは脱出するのみというのに、本当に邪魔な探偵だ。
「今夜のマジックはなかなかだったな。みんなおまえに見蕩れてたぜ。オレ以外の連中は全員」
「名探偵はお気に召しませんでしたか」
「あたりめーだ。〝恋人〟が自分以外のやつらに色目使ってんのそばで見てて誰がよろこぶかよ」
ぐい、と腕を掴んで引き寄せられる。色目じゃねえ、営業スマイルだ。それにこっちはテメーの恋人になったつもりなんかねーっての。
「キッド」
「お放し下さい」
「いやだ」
もう片方の腕も掴まれ、正面から顔を覗き込まれる。
「このまま俺の部屋に来いよ」
「いやです」
ちっ、と舌打ちされる。
なんで、ちっ、てされなきゃなんねーのか、こっちだってムカツク。
「素直じゃねーな、キッド。相変わらず」
「……放せっバーロー!」
キスされそうになって思わず素で拒否ってしまった。
――こいつにはオレの〝すべて〟を知られてる。かなり強引に…一度ならず三度までも、奪われるようにして知られてしまった。素顔も素肌もすべてを。だから仮面で心を隠し通すことができない。
「懲りねえな。まえに言ったろ。焦らすとろくなことになんねーぜ、黒羽快斗」
「うるせっ、放せってんだこのッ!」
名前を呼ばれてカッとなった。怪盗でいる時に本名呼ばれたら身も蓋もない。まえから分かっていたが、コイツにはデリカシーってやつが徹底的に欠けてる。だからキライなんだ、探偵ってヤツぁ!
掴まれた腕を振り払うように見せて袖から閃光弾を落とした。とたんに一面が真っ白く輝く〝ホワイトアウト〟に包まれる。工藤の手が離れた。
バァン!
非常階段へ出る扉を開けると闇夜の風が強く吹き込んできた。閃光に目をやられていては何も見えないはず。これで脱出できる……と思ったのだが。
うおっ?!
上体が後ろに引っ張られて踏鞴(たたら)を振んだ。
「な……バカ放せっ! マント引っ張んじゃねえよ! 放せっ、工藤! 怪我すっぞ!」
「キッド…」
「……」
ずきん。
あ、れ……。
「キッド……行かないでくれ」
片手で目を押さえた探偵がふらつきながら俺のマントを掴んで近寄ってくる。
「行くな、キッド…!!」
「…………」
なんで。
ずきん、ずきんと胸が痛む。
そんな切ない声で呼ぶんじゃねえ。
俺をいたぶるのが大好きなだけの我が侭ゴーマンやろうのくせして。今さらそんなカワイイ声で甘えたって、ダメなもんはダメだ!
「行くな……!」
「離れろよ。見えねえのに階段転げ落ちても知らねえぜ」
目を固く閉じた探偵が俺にしがみ付き、そして抱き付いてくる。
俺の首に顔を埋め……深く深く息をする。
「好きだ、キッド。おまえの謎の匂いが。おまえが好きなんだ。どうしてわかってくんねえんだ」
ずきん。どきん。
「謎なんか…とっくにねえだろが。何度テメーに身ぐるみ剥がれてヤラれたと思ってんだ」
「だから、鈍いってんだよ……」
「なにがだよ」
「そのつもりだったさ。だが、恋の謎はそう簡単に解けない。おまえは今だって俺に心を見せようとはしてくれねえじゃねーか」
――こ、こいつ……。
どおーしてこんな恥ずかしいセリフ言えるんだ。
そりゃもちろん、俺だって抱かれたからってホントの意味ですべてを探偵に奪われたとは思っていない。
意地張ってるだけって気が自分でもしないわけじゃないけど、けど、そう簡単に靡(なび)くような怪盗じゃカッコつかないし。ここは怪盗の声に戻って落ち着こう。
「……お放し下さい、名探偵。どうか今宵はお見逃しを」
「いやだ。次にいつ逢えるか約束してくれなきゃ放さねえ」
コドモかよ。っんとワガママ。
「では、お約束しましょう。次の満月の夜に」
「次の……満月」
「お伺いしましょう。貴方のもとへ」
「絶対か」
やりとりがコドモだって、名探偵。
「……絶対です」
ううっ、結局約束しちゃった。
結局拒絶しきれない。俺のバカ。俺の優柔不断~。
「じゃ……約束のキスくれ。そしたら…放すから」
「…………」
工藤が俺のキスを待っている。
おいおい~。必殺キス待ち顔かよ。
勘弁してくれよ。
薄暗い屋外の階段で、間近で無防備に待ち受け顔する工藤にこっちの方が恥ずかしくてシにそうになる。心拍数上がって体中熱い。
…さ、さっさと済ませて逃げよう。
ん、んじゃ。いただき……ましょうか。
えいっ。
「……」
目を開けると、工藤が微笑んでいた。
あれ……見えてんの? 俺、もしかして騙された??
「足んねえ」
「…え?」
「そんなキスじゃ全っ然足んねえ!」
「わっ!」
う、うぐぐ~っ。
がばっと抱き寄せられ、長くて深いキスを何度も施されて、俺はくらくら眩暈を起こして逃げられなくなった。
どんな風の吹き回しか、珍しく工藤はムチャをせず、そんな俺を動けるようになるまでただ胸に抱いていてくれた。
風が強くても寒くなかった。
温かな体温が……工藤が俺を包んでくれていたから。
不思議と俺も素直になれた。
実は動けるようになってからも、暫く黙ってそうしていた。
20120512
[13回]