標的 II
カテゴリ★インターセプト3
─────────────────────────────
追尾してくる一機のヘリを海上に誘き出し、ウォッカに急旋回させ、土手っ腹目掛けて撃った。
オレンジの炎を噴き上げ、コントロールを失った機体は見る間に落下していく。
「一発で仕留めるたぁ、さすが兄貴」
「燃料タンク狙うなんざ狙撃のうちに入らねえ。さっさと梯子を巻き上げて速度を上げろ。追っ手は他にもいるぞ」
「へえっ。それじゃあ…今墜したのは」
「サツでもFBIでもねえ。おそらく例の奴らだろう」
「例の奴らってえと、ベルモットが会いに行った…? 大丈夫ですかい、もしそうなら」
「関係ねえ。手を組んだってのは〝上〟同士の方便だ。邪魔者は消す」
「わかりやした」
頷いたウォッカが肩をすくめて笑う。
「それにしても〝K〟のやつ、たいした度胸ですね。あの高さで躊躇なくヘリの梯子に飛び移るなんざ、さすが怪盗────おっと、元怪盗といったところですかい」
ガチン、と音がして梯子が巻き上がり、開け放ったスライド式後部ドアからガキが顔を現した。くるりと一回転して足から中に飛び込む。
カーゴスペースの小さなシートに収まり、俺と目が合うと手にした獲物を放って寄越した。
「フン…」
大きさに比して軽く、輝きが浅い。
「イミテーションか。まあいい。これで何時でも工藤新一を引き摺り出せることは分かった」
俺は人差し指と中指で作った銃口を〝K〟に向け、撃つ真似をした。〝K〟は唇を結んで俺を見返している。
「今度ふざけた真似しやがったら容赦しねえ。解ったな」
APTX4869もパンドラも、組織の金蔓以上の価値は俺にはねえ。
俺が欲しいのは奴の生命(タマ)だ。工藤新一 ────俺が過去唯一殺し損ねた標的。
今夜スコープのレンズに映った工藤新一の顔が甦る。サーチライトの反射を受けた濃い陰影。瞬きもせず〝K〟を見詰めていた…。
てめえをいつ殺るかは俺が決める。
今夜撃たなかったのは〝K〟の背が邪魔をしたからじゃねえ。ここまでとっておいた獲物をアッサリ殺っちまうのが勿体なかっただけだ。
もう炙り出す必要もねえ……俺が差し出す銃口の前に、てめえは自ら姿を現すんだ。
〝K〟が先か、てめえが先か。せめて選ばせてやろう。その時が訪れたらな。
・・・・・・・・・・・・・・
「あの子をジンに渡して何を企んでるの、バーボン」
「いきなりなんですか。急に呼び出して」
間接照明に浮かび上がるカウンター席の隣に着くと、ベルモットは指に挟んだ細いシガーをもみ消した。
「それなら、ぼくからも質問があります。貴女はもしかしたらあの少年を知っているのではないですか?」
怪盗キッド。ジンが〝K〟と呼ぶようになった少年を。
「あら…順番よ。あなたから答えてちょうだい」
バーテンダーがぼくを見て注文を待っている。
「バーボネラを」
ぼくがカクテルの名を告げると、ベルモットも『次はオールド・パルね』と言ってバーテンダーにウィンクした。
オールド・パル。古い仲間という意味を持つカクテル。これは何かの揶揄だろうか?
「…意図してジンに少年を渡したわけじゃありませんよ。ジンが〝怪盗〟をどう扱うかなんてぼくに予測できるわけがない」
「使えるだけ使えばいいと言って差し出したのでしょう? ジンがあの子を手元に置く限り、他の者はあの子に手が出せないわ。メンバー以外の人間が組織内で生きていられるなんて、ある意味奇跡よ」
「しかし、この先もジンが彼を生かしておくとは限らない」
「そうね。でもあなたが最初に派手にあの子を弄んだおかげで、逆にあの子が命拾いしたのは確かだわ」
「次はあなたが答える番ですよ、ベルモット」
これ以上突っ込まれる前に差し返した。ベルモットは口元だけで小さく笑うと自分の紅いマニキュアの指先を見詰めて言った。
「あの子を知ってるかって…? その答えなら、イエスよ」
20140529
─────────────────────────────
※つづきます。新一&白馬サイドの補足もしたいんですが……タイトル変えて、以下次号(*_*;
●拍手御礼
「テストケース」「クロスステップ」「リハビリ」「頭痛」「標的」へ拍手ありがとうございました(^^)/
★拍手コメント多謝!!
momo様 「標的」へ貴重なお言葉感謝ですっ。自己満足パラレルとはいえ、コレって読んでて少しでもオモシロイのだろうか?…と、少々気に病んでたところでしたので救われました~。おかげさまでがんばる気力up↑です(TvT);;
※このところ急展開している原作が気になりますよね! しかし今から取り入れるのも難しく…『カテゴリ★インターセプト』さらにパラレル度がアップしていくと思います。お付き合い願えれば幸いです~m(_ _)m。
[12回]