魔法の塔《1/2》
カテゴリ★インターセプト3
※新一視点にて
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電子錠の赤い光が消えている。オレはドアを手で引っ張った。
中に入って暗視ゴーグルで見渡すと、この部屋が研究室らしい設備を備えているのが分かった。ビンゴか。
「…灰原! 見つけたぜ!!」
衝立の奥の簡易ベッドに、白衣姿の小さな灰原が横たわっていた。
身辺に手が伸びつつある事に気付いた灰原は、博士の元を離れようとして待ちかまえていた何者かに拉致され、ここに連れてこられたのだろう。
閉じ込められて昼も夜もなく強制的に研究を続けさせられていたのか。
だいぶ弱っているようだが、息はあった。抱き上げた幼い体の軽さに眉をひそめる。
この体で抱えきれないほどの苦悩を背負ってきたのだ。
早く解放してやりたい。
そのためには、まずはここから脱出しなければ。
『新一、警察に通報したぞ。ヘリが着くまでなんとか凌ぐんじゃ。哀くんを────』
サザ…ザ……
「博士?」
異音がして、通信が途絶える。
パチッと音がして非常口の常備灯が点いた。
通電が復活したか。いよいよ奴らが迫っている。しかしあと少しの間追撃をかわせば、灰原を助けることが出来る…!
エレベーターが動いていた。下から誰か昇ってくる。オレは暗視ゴーグルを投げ捨て、灰原を抱え直して非常階段を駆け上った。
港を望む摩天楼ビルの高層フロアが〝黒の組織〟の拠点の一つだという情報は、おそらくCIA諜報員からもたらされたものだ。表向きの外資系企業は実在するものの日本への進出は数ヶ月に満たず、実体は不明。FBIは情報不足と時期尚早を理由に動かなかった。
オレは単独で行動を開始した。もたもたしていたら灰原がどうなるか分からない。
一人で動くことに不安はあったが、誰に相談しても止められるのは目に見えていたし、誰かを巻き込むだけの自信もなかった。
オレは詳細は告げずに博士にバックアップを頼み、身に付けられるだけの装備をしてここへ潜り込んだのだ。
未明の屋上には海風が強く吹き付けていた。
ヘリの音はまだ聞こえない。階下に放った麻酔弾の効果も数分の猶予を作るのがせいぜいだろう。どこか少しでも身を隠せる場所はないか。
オレは気が遠くなりそうな高所から下を見下ろした。
「飛び降りるつもりですか? 羽根が無ければ墜ちて死ぬだけですよ」
ハッとして振り向いた。
数メートルの距離をおいて、背後には拳銃を突き出した〝バーボン〟が立っていた。いつの間に…!
「〝自らを魔法にかけた小さな姫〟を救うために、単身この〝塔〟へ乗り込んできたのですか? 高校生探偵の工藤新一くん」
退路はない。
何か気を逸らせる方法はないか。だが灰原を抱いていては思いきった動きもとれない。
「勇敢だと讃えたいところですが、無謀すぎますね。今の君のような状態をなんていうか知っていますか」
ゆっくりと話しながらバーボンがにじり寄ってくる。
「孤立無援、袋の鼠です」
「…もうすぐ仕掛けた爆弾が爆発するぞ」
「ハハ、往生際が悪いな。出任せで時間稼ぎのつもりですか。キミは上手く潜入したつもりでいたかもしれませんが、ぼくは最初からキミの動きをトレースしていた。泳がせてわざと逃げられないよう屋上へ誘導したんですよ。気が付きませんでしたか」
「バーボン…おまえはどっちの味方なんだ!」
「何を言ってるんです? ぼくを疑わせて仲間割れを誘う陽動のつもりかな」
暗に会話が筒抜けであるとバーボンは告げていた。
せっかく灰原を見つけたのに。
逃げられない。
逃げられないどころか────。
バーボンの肩越しに、屋上出入り口の扉が開くのが見えた。
黒い男が二人。
背の高い長身長髪の男。がっしりしたサングラスの大男。
ジンとウォッカだった。
ちらりと背後を振り向いたバーボンが微笑む。
「飛び降りて自殺した方がマシかもしれないですよ。彼らはターゲットに容赦がない」
「…………」
「特にキミはジンのお気に入りのターゲットのようですからね。さあ、どうしますか?」
ぐいと拳銃を突きつけられ、屋上の縁まで追い詰められる。風が吹き付け、ふらつくだけで墜ちそうだ。
「?!」
不意にバーボンがすっとオレに近付き『向こうを向け』と低く囁いた。
────バーボン、そいつはオレの獲物だ。こっちに寄越せ!!
ジンが迫る。
〝かちり〟
「?!」
何かが肩にはめられた。長く白いマントが自分の背で棚引いている。
「飛べ、工藤。その子を離すな!」
え────?
どん、と突き飛ばされ、体が宙に投げ出された。
墜ちる──!!
身を乗り出してオレを見下ろしているバーボンの顔が、僅かに見えた。
うそだ…
そんな
そんな、馬鹿な。
いまのが、おまえだったなんて…!
「快斗ぉ──────────っ!!!!」
肩のボタンに仕込まれたグライダーのスイッチを押した。
膨らんだ怪盗の翼が風を受けて煽られ、一気に浮き上がる。迫っていた地面から、あっという間に遠ざかった。
心臓が割れそうに鳴っていた。
灰原をどこかに降ろさなければ。
だけど片手では不慣れなハンググライダーを上手く操る事が出来ない。
風が強くて、降りられない。
涙で前がよく見えなくて。
早く戻らなければ。
快斗がいるんだ。あそこに。
バーボンに変装した快斗が……!!
魔法の塔《2/2》へつづく
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※インセプ展開に悩んでいるうちに一週間過ぎてしまいました(*_*;
以下拍手御礼です!!
●拍手御礼!「蠕動2」そして「グッナイ・サマー・バースデー」他、白快カテゴリの各話へ連続拍手いただきました。
さらに「原点」「ひとりごと/新快なんです」「掠れた記憶」「月光という名の真実」「オーヴァードライヴ 妄想編」「ボーダーライン」「落書き新快」「恋人以上・謎未満2」へも、ありがとうございました!!
ひっそり埋もれてる話にも拍手いただけてとてもうれしいです! かたじけないです(^^;)!!!
※林檎さま、拍手からの応援コメントどうもです。いつもお心遣いありがとうございますっ m(_ _)m
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