警戒警報(有希子/新一×快斗)
カテゴリ★デジャヴ
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「だーれだ?」
フローラルの薫り。
リビングに入ったら後ろから目隠しされてガクッと力が抜けた。ガキ扱いすんなよ。
「母さん…、いつ来たんだよ。ったく、父さんといい、母さんといい、戻ってくるならちゃんと連絡寄越せってんだ」
「あら。自分の家に帰るのに、息子に知らせとかなきゃならないの?」
「当たり前だろ。オレにだって都合があるんだ。家にいねえかもしんねーし…」
「わたし鍵持ってるもの。新ちゃんが出掛けてたって平気よ」
「ほ、他にもいろいろあんだよ!」
にこりと笑うお袋の目が光ってる。ヤバい。突っ込まれる。
「ねえねえ。それってもしかして新ちゃんの恋人が来てる時だったら恥ずかしいとか、そういうこと?」
「んな…バカ言え! 恋人なんか」
「そうなの? 超ゾッコンで追い掛け回してやっと捕まえたのに、もう逃げられちゃったんだ」
「な、なっ…、だだ、誰にそんな話を…逃げられてねーし!! 」
はっ。お袋の唇が二マッと持ち上がる。〝恋人〟が誰だか分かって言っているのか?
「紹介してよ、新ちゃんの恋人」
「・・・だめ」
「ケチ。じゃあいいわよ、自分で逢いに行くから」
(@@) なに言い出すんだッ。
「だめだって、絶対!」
「なによ…ずるいんだから、優ちゃんも新ちゃんも」
「何がずるいんだよ」
「優ちゃんたら、あれこれ理由つけてわたしをロスに置いてけぼりにしたり、一緒に日本に来ても別行動ばっかり」
「ああ…」
親父め。お袋の目をそうそう何度も誤魔化すなんて無理なのに。おかげでとばっちりだよ。
「アア、じゃないわよ。新ちゃんも知ってるんでしょ、優ちゃんの浮気!!」
「いやっ、それは……(*_*;」
浮気? 浮気と言えば浮気か。実際快斗を巡って親父の立ち位置、オレのライバルだし。
「でもね…相手が怪盗キッドなら仕方ないかな~なぁんて」
「え?!」
「優ちゃん、ずうっとキッドのこと想ってたみたいだから」
「な、なんでそうなるんだよ。父さんをしっかり捕まえとけよ、母さん!」
「ふふ。新ちゃん、もしかして苦戦してるわけ? 優ちゃん相手に」
「なっ…」
「わたしも逢ってみたいなあ、素敵な怪盗紳士に。月明かりに照らされて〝今晩は、お嬢さん〟なんて挨拶されたら、それだけで堪らないでしょうね…!」
宙を見てお袋がうっとり頬に手を当てる。なに想像で自分をお嬢さんとかキッドに言わせてんだよ。それに。
「相手は泥棒だぞ」
「悪い泥棒じゃないんでしょ。悪い泥棒だったら、優ちゃんや新ちゃんが好きになるわけないもの」
「いや、その、だから…、あのなぁ! だいたい母さん何しに来たんだよっ」
「怪盗キッドに逢いによ♪」
「だめだって! 父さんは?!」
「優ちゃんは締め切りに間に合わなくてロスのホテルに缶詰よ。優ちゃんの気が散るから、私共にお任せくださいって担当の人が」
────そりゃ散るだろう、親父の気も。怪盗キッドに逢いたいなんてお袋が言い出したら。
親父…締め切り前だってのに、少しだけ同情するよ。ライバルだけど。
「ね、今度いつ来るの? 怪盗キッド」
「来ねえよ! 予告も出てねえし」
「前に優ちゃんがここで留守番してる時にキッドが来たんでしょう」
「父さんがそう言ったのか?!」
「ううん。でもその時からだもん、優ちゃんコソコソするようになったの」
「…………」
にこにこしながら、それでもお袋の瞳は鋭く輝いてオレを見詰めている。
お袋の好奇心と妙に鋭い勘と突拍子もない行動力は侮れない。
これはマジで警戒警報発令だ!
─────ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
誰かしら? とお袋が玄関に向かう。
慌てて追い越そうと走り出したら、サッと足を引っ掛けられてオレはエントランスに頭からすっころんだ。
「はーい!」
ガチャ。お袋がドアを開ける。
うわわっ、まさか快斗…(@@);;?
ありがとう、サインでいい? とお袋が言ってる。…ほっ。何かの荷物のようだ。がっくりと床に突っ伏すオレ。
ゴロゴロとでっかいスーツケースを転がしながら戻ってきたお袋が、しれっと笑う。
「あら新ちゃん、こんなとこで何してるの」
「なんだよ母さん、その大荷物!」
「キッド様と逢うのに何を着たらいいか考えたら迷っちゃって。念のため色々用意しちゃった! うふ♪」
「うふ♪ じゃねえっ」
「もう…新ちゃんたら怒鳴らないの。いつまでも床に寝ころんでないで、ご飯食べてお風呂入って歯を磨いて寝ましょうね」
くそ。自分で転ばせておいて。
「コドモ扱いすんな」
「子供よ、新ちゃんは幾つになったって。大事なわたしの一人息子!」
詠うように言いながらお袋は自分たち夫婦の部屋の方へ荷物を転がしていった。
……やれやれ。勘弁してほしい。いっいどんだけ居る気だよ(--#)。
pi♪ pi♪ pi♪ pi♪・・・
快斗からだ! 着信に気付いて焦って携帯を取り出した。
『おう、くどー。これから行くけどいい?』
「偉いぞ快斗! よく電話した! だめだ来るな!」
『はあ?? なんでだよ。そっちで課題片付けようと思ったのに』
「いまお袋がロスから戻ってきてんだよ」
『有希子さんが?』
・・・なんでお袋を名前呼びなんだよ。
『ちょっと逢いたいかも…。憶えてねえか、俺のこと』
「逢ったことあんのか、お袋に!?」
『子供の頃な。はっきりは覚えてないけど。俺の父さんと工藤のお袋さん、マジシャンと女優としてそれなりに面識があったらしくて』
「本当か? 親父から聞いたのか」
『ん。小さい時、父さんに連れられて出掛けてさ。お店で会った女の人に、マジックで花を出してプレゼントしたことがあったんだ。前髪くるんってなってて、その人に〝オバサンときれいを一緒に言っちゃいけない〟って注意されたんだよ』
「お袋だ」
アハハと快斗が電話の向こうで笑った。
『優作さんもそう言ってた。有希ちゃんに違いないって』
だからなんでオレの両親名前呼びなんだよ!
「快斗」
『ん?』
「オレが行く」
『行くってどこへ』
「おまえに逢いにだよ。逃げんな、待ってろよ」
『ええ? おい、工藤────』
電話を切った。
声を聞いたら無性に逢いたくなった。快斗に。
快斗に逢いたい。逢いたい…。
「母さん、オレ出掛けてくる!」
「恋人に逢いに? だったら止めても無駄ね」
「な…なんで分かるんだ」
「うふ。恋する乙女の気持ちは痛いほど解っちゃうのよね。気をつけて行きなさい。次はちゃんと私にも紹介してよ!」
それは難しい。てかオレ乙女じゃないし。
しかしとにかく頷いて、オレは家を飛び出した。
お袋に快斗を紹介する───そんな日が訪れるだろうか?
怪盗キッド。快斗。
オレの恋人。オレだけの…。
頭の中は快斗のことだけになっていった。
駆けつけたオレに慌てた顔をする快斗を抱き締める──そんな予想図を頭に描きながら。
待ってろ快斗。いま行く。
おまえに逢いたい。
ただ、逢いたいんだ。
20130615
[8回]