名探偵コナン・まじっく快斗の二次BL小説。同ジャンル諸先輩方の作品に触発されております。パラレルだらけですが基本は高校生の新一×快斗、甘めでもやることはやってますので閲覧は理解ある18才以上の女子の方のみお願いします。★印のカテゴリは同一設定で繋がりのあるお話をまとめたものです。up日が前のものから順にお読み下さるとよいです。不定期に追加中。※よいなと思われたお話がありましたら拍手ポチ戴けますと至極幸いです。コメント等は拍手ボタンよりお願いいたします! キッド様・快斗くんlove!! 《無断転載等厳禁》

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幻の境界(スパイダー/白K)
カテゴリ☆呪縛
※場面と時間が前後しつつ、前の二話と繋がっています(*_*; 快斗くん視点。
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劇場のエントランスホールは不気味に静まり返っていた。

数メートルおきに連なる小さな常夜灯が空々しく辺りを照らし、余計に闇を深くしている。

硬い筈の床は見通しがきかず、足下は曖昧で、進むごとに澱んだ沼へと嵌まってゆくような錯覚をおこさせる。
それでも俺は歩みを止めなかった。
スパイダーがどこで俺を待っているかは考えなくても解っていた。

どこまでがヤツの仕業で、どこからが自分の意志なのか。
僅かに保っているつもりの意識も、もしかしたら既に自分のものではないのかもしれない。

「…………」

重厚な扉の前で立ち止まった。

この中に、入らなければならない…。
入れば、もう逃れられない。
解っている。

俺は扉の取っ手に手をかけ、ぐいと引いた。
そこが境界だった。
隙間が開いた幻の空間へ、俺は吸い込まれるように足を踏み入れた。

そして俺は黒羽快斗から怪盗キッドへと姿を変えた。






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数学の授業中、ぼんやりしていたら正門前に黒塗りの乗用車が停車するのが見えた。

あれ…と思って白馬をちら見すると、手にした懐中時計を見ていた白馬が顔を上げ、ガタンと席を蹴って立ち上がった。

「先生! 熱っぽいので早退します。黒羽くんも具合が悪いそうなので、うちの車で一緒に送って帰ります」

え…、と担任の先生がキョトンとした顔で白馬と俺を交互に見る。
教室内が唖然とする中、近寄ってきた白馬が俺のカバンを脇に抱える。

「行きますよ、黒羽くん」

「俺は何ともない。てめえだけ帰れ」

〝君が怪盗キッドだと今ここで叫んでもいいんですよ〟

「………」

耳元で囁かれ、その言葉に一瞬でも怯みかけた自分に頭がくる。

「ふざけんな、俺は…」

─────ぐらり。

白馬の腕を振り払おうと立ち上がった途端、目の前が暗転した。
チカチカと視界に散る細かな光の粒子とその奥の赤い光。

傾いだ体を、白馬に支えられた。

「歩けないなら、担ぎます」

「…………」

撥ね避けようとしたが、体の自由が利かない。俺は白馬に引き摺られるようにして教室を出た。
振り向くと、青子が心配げに俺たちを見送っていた。



ふかふかの後部座席で車に揺られ、俺はいくらか眠ったようだ。
白馬がそばに付いていてくれるという事が、不本意ながら俺を安堵させた。
もう何日もちゃんと眠っていない。眠れば必ず厭な夢を見た。自分の異常は分かっている。
目の奥を刺す赤い光は時間が経って弱まるどころか逆に鋭く強くなり、俺を内から苛み続けていた。




「眠れましたか、少しは」

「…………」

白馬。
ここがどこか、初めての場所だったが見渡せば判る。
ここは白馬の家、白馬の部屋だ。
本棚に並ぶ英書の数々。シンプルな額に飾られた品のいい絵画。モノトーンの家具と深緑色のカーテン。俺が寝かされている清潔な広いベッド。使い込まれたバスケットボールがひとつ、部屋の隅に置かれている。

無意識に赤いものを探して、目に付くところには無いのを確認し、俺はホッと息を吐いた。

「今夜と明日はここで過ごしてください。僕がずっと付いています」

「監禁する気かよ。生憎だが捕まえとこうったって無理だぜ。俺は好きな時に消える」

「そうはさせません」

ガチャンと音がし、足首に手錠が嵌められた。もう片方がベッドの支柱に繋がれる。
横になったままだった俺は、白馬に対してすっかり油断していた。

「ふざけた真似すんな!」

「君が怪盗キッドなら、こんな手錠など容易く抜け出してしまうでしょう。黒羽快斗ならどうです?」

「俺だってマジシャンだぜ。てめえが隙を見せれば、すぐに」

「ではこうしましょう」

ガチャリ。

「な…、てめえっ」

今度は右手に手錠がかけられた。そして白馬が自分の左手にその片方の輪をかける。

「いくつあんだよ…手錠」

半分呆れて呟いた。

「いいですか黒羽くん。怪盗キッドはすでにスパイダーの罠に掛かっていると、僕は思っています」

「………」

「このままだとキッドは誘き出される。スパイダーの暗示によって」

「俺は…」

「君が認めなくても関係ありません。とにかく僕は君を放さない。君を捕まえておくことが、僕に出来る最善の策です」

「…………」

俺はただ視線だけを白馬から逸らせた。
白馬が言う意味は解る。解るが…。

「いつものように〝俺はキッドじゃない〟と弁明しないのですね。そんな気力すら失うほど、スパイダーの術中に堕ちているということですか」

「馬鹿言え。おまえのメチャクチャぶりに呆れてんだ」

つい返答してしまい、自分がキッドだと認めたような形になってしまった。舌打ちして目を瞑る。
もう何も言うまい。
白馬にこれ以上近付かれたらまずい。

しかしささくれていた気分は久しぶりに凪いでいた。再び睡魔が襲ってくる。

俺も相当病んでる…。
白馬に手錠で繋がれて、安心するなんて。
ふわりと髪を撫でられた気がした。
俺は白馬に繋がれたまま、本当にまた眠ってしまった。


目が覚め、出された食事を食べたりして夜中になった。
白馬はよほど警戒しているのか、本当に俺のそばから離れない。
腹が膨れ、うとうと、また眠くなった。


あの夢。
あれが俺の悪夢なんだろうか。
怪盗の衣装を剥がれ、大勢に嘲弄されて…みんなの前で正体を暴かれる……。
あれが俺の心の奥底に潜む、悪夢なのか……。



─────何かが蠢く。心臓を震わせて。

はっと周囲を見回す。
変化はない。白馬の部屋。白馬のベッド。動こうとすると、足首にガチリと手錠が食い込んだ。

白馬は隣で寝ている。
逃げようと思えば逃げられる。何か細い…クリップのようなものがあれば。

胸を押さえた。蠢いていたのは、俺のポケットの携帯電話だった。
眠っている白馬が顔をしかめ、小さく呻いた。

俺は携帯を取り出した。

アラームだった。こんな時間に。

俺がセットしたのか……?

何のために……。

小さなランプが、赤く点滅していた。





急所を狙えば、そう強打しなくても人は意識を失う。
俺は二階の白馬の部屋の窓から屋根に出た。塀に飛び移り、電信柱にぶら下がって地上に降りる。

白馬はベッドで伸びてる。異変に気付いて俺を抑えようとした白馬の首筋を、俺が手にしていた携帯で打ったからだ。

スパイダーが怪盗キッドを待っている。

月のない真っ暗な空を見上げ、俺は駆け出した。




20130612

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※このあと、二つ前にupした「嘲弄」ラストへ→さらに今回の冒頭シーンへと続く流れです(汗)。 時間的にはその前となる白馬くんとのエピソードも交互にまぜたりしてスミマセン。
「嘲弄」「点滅のトリガー」「幻の境界」で、なんとか一段落。そして次こそ!スパイダーにキッド様を襲わせたいですっ(*_*;

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