濡れ衣《1/2》(新快前提 ××→快斗)
カテゴリ★普通の高校生パラレル
※普通の高校生BLな続編。お気楽ハッピーだったはずの新快なんですが…(*_*;
快斗くんが特に純情なのがコンセプト、新一くんもわりかしカワイめです。
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快斗~、また明日な!
クラスメートに声をかけられ、おうと返事をして教室を出ると、廊下にサッカー部の一年生が立っていた。
「黒羽さん…あのう、先生が呼んできてくれって……」
「ありがとう、職員室? 部室?」
訊くと一年は首を振って、来て下さいと言って歩き出した。
このまえ新一がサッカー部の練習に姿を現してから、校内での密かな噂にさらに尾ひれが付いていた。
『二年の黒羽快斗はクラスメートと帝丹の生徒と、二股をかけてる』…って。
俺の近く(クラスや部内)で声高にそんな話をするやつはいないし、仲のいい友だちは〝無視だぜ〟と言ってくれるけど。それでも……少なからず好奇の眼を感じていた。
そんな見方をされるのはすごくイヤだし否定したいけど、否定したところで収まるのものじゃないんだろう。おそらく逆効果だ。
我慢して、やはり通り過ぎるのを待つしかないと思っていた。
俺の気持ちは最初からはっきりしているのだから────。
「先生、なんの用だって?」
一年が俯いて首を傾げる。……まさかその噂の件で何か問い質されたりするんじゃないだろうなぁ……と気分が下がり気味になったところで、一年がぱっと走り出した。
あれ…と思って呼び止めようとすると、黒羽、と別の方向から声がした。
「先輩…?」
サッカー部の三年生。と言っても、最近まったく練習に来なくなってしまった先輩だった。
訊きたいことがあんだよ、すぐ済むからちょっと来いよ…と言って、その先輩は突き当たりの視聴覚室を指し示した。
なんだか嫌な気配を覚える。
「あの…先生に呼ばれてるので、失礼します」
おっと、と後ろから背中を突かれた。
驚いて振り向くと、大柄な知らない顔の三年生がすぐ後ろを塞ぐように立っていた。
──── 呼んだのはオレらだよ。さっきの一年ぼーず、センパイとセンセーを言い間違えたんだろ。それか黒羽クンの聞き違い?
そう言って俺の肩を掴み、ぐいと押した。
視聴覚室に強引に押し込まれると、扉がバタンと閉じられた。中にはさらにもう1人、知らない別の三年生がいた。
三人に囲まれて、どきんどきんと心臓が音を立てる。なぜ呼び出されたのか、分からない。
──── 心配いらねえよ。今日はココ空いてるから、誰も来ねえし。
中にいた眉の細い三年生が、そう言って哄った。
────黒羽はさ、一年ん時からサッカー部の不動のレギュラーで、大活躍だよな。だけどオレはもうずっと出番がないままで、練習してもしょーがねえし、さっさと引退しようと思ってんだ。
「え…でも、次の本大会までは……」
────だから、オマエがいっからオレは試合に出られねえって言ってんだよ!!
怒声が響いて竦み上がる。視聴覚室は防音だ。声は外に漏れないんだろうか。
────でさぁ、引退する前にサッカー部にひとつ恩返ししとこうと思ってな。
────オマエが、実は帝丹高校サッカー部のスパイなんじゃねーかって疑惑があるわけよ。
俺の左側に立った眉の細い三年が、思いも寄らぬ言葉を吐き出した。
なんだって…?
「ばかなこと言わないで下さい!」
思わず声を上げると、後ろの三年生に髪を掴まれ頭を振り回された。
髪を引っ張られる痛みより、ショックで目が回る。
なぜ。どうして、こんなことを言われなきゃならないんだ。
────いまから質問すっから、正直に答えんだぞ。じゃねえとお仕置きだ。
低い声で三人が哄う。
────そんじゃあ、質問。黒羽クンは誰と付き合ってんの?
「…………」
無言で正面の先輩を見つめた。
答えるに値しない。たとえ部の先輩でも、こんなやり方は酷い。
恐れと共に怒りもこみ上げてきて、俺は唇を噛んだ。
────あれ。ダンマリ? 先輩の質問に返事できねえの。
バン、と音がして……ビリッと頬が痺れて、打たれたことに気が付いた。かあっとなる。
「やめてくださ…」
続けて反対の頬も平手で張られた。
理不尽すぎて、悔しくて涙が出そうだ。
────なあ、帝丹のサッカー部員と、クラスメートの背が高いやつと、二股かけてるらしいじゃねえか、オマエ。
俺の髪と右手を掴んでいる大柄な三年が背後から囁く。ぞっとした。そんな噂にかこつけて言いがかりをつけるなんて。
「放せっ、勝手なこと言うな!」
思わず怒鳴った。すると髪は放されたが、そのまま背後のやつに羽交い締めされてしまった。動けない上に、顔のすぐ横に荒い息がかかって悪寒が走る。
──── 体育館の用具倉庫で、クラスメートとシてたんだろ。なのに帝丹サッカー部のヤロウと会っちゃあウチの情報漏らしたり、あっちこっちやりたい放題じゃねえか。少しサッカー巧いからっていい気になってんじゃねえよ!
声が出なかった。
向けられているのは〝憎しみ〟の感情だ。
理由なんて何でもいいんだ。
何を答えようが意味はない。
顎を掴まれて顔を持ち上げられる。
─────否定しないって事は認めるわけか。カワイイ顔して、とんだビッチだぜ。今から少し懲らしめてやる。
頬から喉元へ、先輩の指が下ろされ、襟のボタンを外された。
「やっ……!!」
──── バァーン!!!
突然響いた大きな音。
俺も、三人の三年生たちも、ビクッとして動きを止めた。
「なにやってんだっ、てめえら!!」
チッ、と舌打ちが聞こえ、俺を取り囲んでいた輪が崩れる。
勢いよく視聴覚室の扉を開けて現れたのは、サッカー部の主将だった。
濡れ衣《2/2》へつづく
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