プロムナード《1/3》
カテゴリ★17歳
※同カテゴリ前話とは直接続いていません(汗)。そして白快ぽく始まりますが、そうではないのでゴメンナサイ…(*_*;
────────────────────────────────
「白馬探です。お招きにあずかりまして、ありがとうございます」
「おお…白馬警視総監ご子息の。 いらっしゃいませ。お連れの方も伺っております。どうぞこちらへ」
ロマンスグレーの髪を品良く整えた案内人の男性が扉を開けてくれた。案内人は振り向きつつ、僕の連れをあらためて認めると、ホゥと溜め息を付いた。
「お美しいですな。失礼ながら、お嬢様は白馬様の…?」
婉然と微笑むパートナーの肩を抱き、僕は当然のように返答した。
「僕の婚約者です。痛ッ!」
各界の名士が集まる副都心の某ホテル高層階パーティー会場。
無事関門を通り抜けたものの、並んで歩く〝パートナー〟に僕は反省を促すため文句を言った。
「蹴飛ばすことはないでしょう。怪しまれるじゃないですか」
「てめーが変な事言うからだ!」
見た目は可憐な少女に変装している黒羽快斗が憮然とした声で言う。
「パーティーに潜り込むために誰か女性を…と言ったら、君が自分で提案したんですよ。もっとも本当は工藤くんと組みたかったのでしょうが」
「そんなわけねぇだろ!」
・・・・・・・・・・・・・
白馬にエスコートされ、会場が見渡せる前方壁際へ移動する。
探偵を名乗っていたとしても、身分としては全員が一介の高校生に過ぎない。警察を交えることなく〝潜入捜査員〟のような真似をして、万一何かあれば大問題だろう。
こんな危ない橋をよく渡る気になったものだ。工藤も白馬も服部も。
「きゃっ!」
あやしい人物がいないかすれ違う客達の様子に気を取られていた俺は、ローヒールを敷物にとられて転びそうになった。咄嗟に女声をあげたのは身に付いた〝変装〟の習性だろう。
白馬に支えられて転ぶのを免れたが、そのままクルリと体を返され、俺は白馬と面とむかって向かい合った。
「気をつけて下さい、マドモアゼル。うっかりすると」
「ありがとう。もう離して平気よ」
そっぽを向いて応えると、白馬が俺の頬に指を添えてきた。
「君を好きになってしまいそうです」
────はぁ☆☆?
「似合っていますよ、そのドレス。とても綺麗だ。君がもし本当に女性だったなら…」
「アホか」
口をへの字に曲げると白馬がやれやれとため息を付いた。
「もうちょっと楽しませてくださいよ、この状況を。僕は今夜何事も起こらない事を心から願ってるんですから。あ…、どうもご無沙汰しております」
白馬の知り合いらしいどこぞの夫妻が近寄ってきた。
如才なく挨拶を交わしている白馬の半歩後ろから、俺は改めてさり気なく周囲を見渡した。
《黒羽、どないや会場内は?》
ゆるふわカールの髪で隠した耳元を押さえる。イヤホンに届いたのは服部の声だ。
天井に二カ所、ステージ脇と入り口付近各一カ所の計四つあるカメラの映像を地下のモニタールームで見ているのだろう。
手を軽く口元に寄せ、阿笠博士の発明品の指輪型マイクに話しかける。
「まだ入ったばかりでよく分かんねえけど、立食で客が絶えず移動してるから厄介だな。とは言え年配の落ち着いたカップルばかりで、おかしな奴が紛れてる感じはしねえけど」
《若い客はおらへんのか?》
「まあ、いることはいるけど…それでも30代がチラホラってとこかな」
《ひょっとするとスタッフに化けとるかもしれへんな》
「ああ」
確かにそうだ。もし自分が潜入するなら、そうする。
《ところでなァ、黒羽》
「なんだよ」
《せっかく可愛いカッコしとんのやから、もうちょい可愛い声で応答せえへんか》
「放っといて下さい」
ヤケクソ半分、女声で返答するとイヤホンの向こうで服部がワハハと笑うのが聞こえた。
「─────ええ、そうです。彼女は僕の恋人で」
相手の夫妻に応えている白馬をもう一発蹴飛ばそうとしたら、白馬のやつ、サッと横に動いて避けやがった。
依頼者はN医大名誉教授の娘夫婦。
白馬の両親とは元々懇意との事で、その伝(つて)を頼って内密にと打診があったらしい。阿笠邸を(現状俺たちの事務所代わりになっている)依頼者が訪れ、話を聞いたのはほんの数日前だ。
今回の引退慰労パーティーの主役である依頼者の父親が、以前から何者かに脅迫を受けているという。理由は不明だ。
反りの合わない同僚、利害が絡む業者、かつての教え子、或いはこれまで診てきた患者やその親族からの逆恨みの可能性もある。しかし潔癖な父親は警察に相談しようという娘夫婦の話に耳を貸さないらしい。
〝脅迫者〟がパーティー会場に何か仕掛けてくる可能性がどれほどあるかは分からない。娘夫婦が念のため警備員を配置するよう父親に進言したが、親しい客人を集めた会場にそんなものは不要だと父親はその申し出を一蹴したそうだ。
ステージ近くに歓談の大きな輪が出来ていた。今夜の主役を囲んだ客達に、娘夫婦の姿も見える。父親の側に付いているよう、工藤が指示したのを守っているようだ。
─────その工藤は?
工藤のやつ、自分も会場にいるからなんて言っていたけど、どこに隠れてるんだろう。こっちは白馬に肩なんか抱かれて、ずっとニコニコ微笑んで、ほっぺがつりそうだってのに。
どうせならカワイく変装してるところ見せて、驚かせてやろうと思ったのに。
・・・はっ。
慌てて首を振った。
俺、今なに考えてた?(@@);;
工藤に女の姿してるところ見せたい…なんて?
なんで?
かぁと頬が熱くなって知らず頬を両手で抑えていたら(自然と仕草も女っぽくなる)、俺を振り向いた白馬まで少し赤くなって鼻の下伸ばしやがってワケ分かんねえ。
何事も起きないに越したことはない。白馬の言うとおりだ。
だが依頼者たちは明日以降も脅迫に怯えて過ごすことになる。この場に〝脅迫者〟がもし潜んでいるのなら、見つけ出し、押さえてしまいたい。
工藤が言うのは尤もだ。
そして事が上手く運べば、この会場に集まっている各界名士たちを一気に顧客として獲得出来る可能性がある。
工藤は、だから本気なのだ。
本気で俺たち17歳の仲間で探偵事務所を営もうとしている────。
乾杯、祝辞と続いて、主役の教授の功績などがビデオで紹介され、宴半ばとなった。
全く異常は無い。
依頼者の杞憂だったかと俺も思い始めていた。
やがて会場にスローなダンス曲が流れだした。ソシアルダンスを嗜む客人が集まっているようだ。後方のテーブルに着いていた客もそれが合図だったかのように立ち上がる。
全体のおよそ半分ほどの人数がフロアに出てペアを組み、緩やかに踊りを楽しみ始めた。
「マドモアゼル、僕らもどうです?」
白馬が俺に手を差し伸べた、その時だった。突然黒い影がサッと俺の目の前を塞ぐ。
「あっ」
腕をとられ、白馬から引き離される。
しかし、追ってくるかと思った白馬はこっちを見て肩を竦め、苦笑いをしていた。
『快斗』
どきんと胸が鳴っていた。俺の腰に手を回し、プロムナードポジションをとろうとしている黒衣の男。
ダンサーに化けた、工藤だった。
プロムナード《2/3》へつづく
────────────────────────────────
※おおっと、事件そっちのけです(大汗)。大丈夫か探偵連中、そしてちゃんとまとめられるのかワタシ~(x_x)?!
●拍手御礼!
「裸身」へ拍手下さった皆様、いつも、ありがとうございます~(^。^;)!!!
[13回]