金色の絲《3/4》(スパイダー/白K)
カテゴリ☆呪縛
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俺を見詰めていたのは、穏やかな色の瞳に俺を映す白馬だった。
白馬は、その長い指先で俺の頬を包み込んだ。
はく…ば……!?
嫌悪と屈辱が、安堵と歓喜に代わろうとしている。
俺は…。
俺は、こんなに…白馬に惹かれていたのか?
一目見ただけで。
涙まで溢れそうになるほど…。
幻と解っていても、体も心も反応してしまう。体の奥に届く衝撃を、白馬によるものと錯覚してしまう。
白馬。
おまえなら。
これが本当におまえなら…。
俺を説得しようと屋上で対した時の白馬を思い出す。
俺の腕を強く掴んだ、白馬の力を。
戸惑う瞳。揺れる想い。
とっくに気付いていたのに。
俺は…気づかぬ振りをして。
白馬にも。自分にさえも。
唇を覆われる。
白馬の顔をした幻は、どこまでも白馬にそっくりだった。
だが。
─────違う。
これは。
この口付けは、白馬のものじゃない。
違う。
違う!
違う─────!!
(あっ?!)
右手に衝撃があって、俺は目が覚めた。
目の前に、仮面が外れかけたスパイダーの姿。
黒い仮面はゆっくりと滑るように剥がれ落ち、少し間をおいてゴトリという音が下方から聞こえてきた。
白い肌をした金髪碧眼の青年が、酷薄な唇を噛んで俺を睨んでいた。
(!!)
スパイダーの両手が俺の喉を掴み、絞めつけてくる。体はまだ繋がっていた。しかし手脚の戒めは無い。巻き付いていた金色の絲は幻覚だったのだ。
俺は暴れた。スパイダーに穿たれた楔が抜ける。
俺は俺自身に戻った。完全に覚醒した。
しかし喉を絞めるスパイダーの手が外せない。
スパイダーは上から押さえるように俺の喉を圧迫している。
苦しさに呻いた。
スパイダーはじわじわと俺の頸を絞めていた。時間をかけ、俺が苦しみ死に近付いてゆく姿を愉しんでいるのだ。
外さなければ。殺されてしまう。
このまま、俺は…スパイダーに…。
ク ク ク と哄うスパイダーの気配。
その時────バァン!と何かが激しくぶつかる音と振動が響いた。
「そこまでだ、スパイダー! キッドから離れろ!!」
チッ、と舌打ちしたスパイダーの手が喉から離れる。
息をしようとして咳き込んだ。
すぐには酸素を吸い込めずに、息苦しさに俺は喘いだ。
いまの声は……。
幻じゃない。いまの、声は。
スパイダーが飛び降りる。
下を見た。薄暗い客席の中央に立っている、あれは…。間違い無い。
白馬!!
自分の置かれた状況を確認する。
ここは劇場の大ホール。スパイダーのステージ。吊り下げられた巨大な蜘蛛のセットの上だった。
光って見える蜘蛛の巣の金の絲も、すべてがセットだ。
俺は、この場所でスパイダーの手に堕ち…たった今まで弄ばれていたのか。
だが屈辱に震えている暇はない。
白馬にこれ以上無様な姿を晒すわけにはいかない。
俺はモノクルを拾って立ち上がった。
俺は─────怪盗キッドだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「スパイダー…いや、ギュンター! 警察を呼んだ。インターポールへも通報される。逃げられないぞ!!」
「どこまでも無粋な探偵よ。怪盗キッドを仕留めるラストステージをぶち壊しに来たかと思えば…くだらぬ。証拠もなしに日本の警察はおろかインターポールが動くものか」
「これまではそうだっただろう。だが、おまえがイリュージョンを殺人に利用していた事は僕が証言する!」
「おまえの証言など必要ない。おまえはここで死ぬのだ。怪盗キッドと共に、今宵こそ屠ってくれる」
僕は手にしたバスケットボールを振りかぶって思い切り投げつけた。
ガアンとステージ上部の照明に当たり、ボールは跳ね返って中央通路に立つ僕の手元に戻ってくる。
ぐらぐらと照明が大きく揺れ動き、スパイダーがそれを仰ぎ見た。
「なんだ、それは…? そんな物で私と対決するつもりか。嗤わせるな」
「僕一人ならね。しかし、僕は一人じゃない」
ボンと音が響き、煙幕がステージに立ち込める。
怪盗キッドだ…!!
僕はスパイダーが視界を失っている間にステージへ駆け上がった。
金色の絲《4/4》へつづく
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※次で終わるはず…です(*_*;
※なぜバスケのボールか? その訳は同カテゴリを遡ってお読みいただけますと…なんとなくわかるかも…(大汗)。
※もたもたしている間に快斗くんのバースデーが通り過ぎてしまい…pixivに皆さんupされてるハピバ物を見て気付くという体たらく…あうう(T_T)。
●拍手御礼!
「いたずらがき/新快 」「カルマ」「ミスター・ローズ」「警戒警報」「金色の絲1・2」へ拍手ありがとうございました。
& special thanks ~ 青山探索館さま!!
[13回]