〝カイトウ・きっと〟事件
(中森警部&怪盗キッド)
※カテゴリどうしよー(*_*;
────────────────────────────────
「快斗くんじゃないか。どうしたんだ、こんな時間に」
大通りを渡って駅に向かう途中、突然肩に手を置かれてビックリして立ち止まった。
「おじさん…!」
中森警部だった。
幼なじみの青子の父親であり、怪盗キッド〝初代〟からの仇敵。
「日付が変わるぞ。こんな遅くまで遊び歩いとるとは感心せんな」
警官の注意というよりも親類の子を案ずるような声に、思わず頭をかいた。
「すみません、友達と映画観てたら遅くなっちゃって。もう帰るところです」
そして誤魔化す。
本当はこの先の高層ホテルに〝仕事〟の下見に行ってきた帰りだ。
「おじさんこそ、何してるんです?」
「ん? ああ、ちょっと〝捜しもの〟をな」
言葉を濁しつつ、視線はさっきから満遍なく周囲に注がれている。
「そっか…、仕事なんですね。犯人捜しなら手伝いましょうか?」
「馬鹿言っちゃいかん。早く帰りなさい!」
冗談が通じる状況では無かったらしい。
大きな手で背中をグイッと駅の方向へ押し出された。
こっちを見ている中森警部に走り出しながら手を振った。
─────その時。
微笑んでいた警部の目つきが急に変わった。
一点を睨んで踵を返す。
警部の広い背が人波の中へ紛れて消えた。
当初は、それほど騒がれるような事件じゃなかった。事件というより、面白おかしくワイドショーが取り上げるようなB級ネタ。
怪盗キッドをもじった〝カイトウ・きっと〟と名乗る一連の愉快犯の事だ。
この一月ほどの間に、23区内(特に山手線主要駅周辺)で頻発している複数犯による軽犯罪事件。
しかし、ここ最近の犯行はエスカレートし、もはや愉快犯とは呼べないタチの悪さが目立つ。
覆面強盗まがいの事件を起こしたり、気に入らない対応をした店を〝きっとやっつけます〟などとネットで予告し、果ては本当に襲って店内をめちゃくちゃに壊した画像を〝○○征服〟とタイトルを付け匿名サイトに投稿したりする。
ここまでくると名前をもじられた方も気分が悪い。
この事件がやっかいなのは、実行犯が不特定多数である事だ。
日々の鬱憤をこんな事でしか晴らせない奴らがゲーム感覚で人や店を襲い、それを凱旋報告のようにネットに投稿する。その誰もが〝カイトウ・きっと〟と名乗る。
その名を借りれば、互いの名も知らぬ不特定多数の中に紛れてしまえるのだ。
そうして〝カイトウ・きっと〟は今も増殖を繰り返しているのかもしれなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「君、待ちなさい」
追跡に気付いているらしい男に、路地を折れたところで呼び掛けた。
男はチラッと振り向くと半分フードに隠れた陰気な顔を歪ませた。どうやら哄ったらしい。
────あんた、テレビで見たことあるぜ。警視庁捜査二課の警部さんだろ。怪盗キッドにいっつも逃げられてる─────。
この手の雑言には馴れている。その通りなのだから、仕方ない。
「私の身分を知っているなら話は早い。職務質問だ。君、名前は? ここで何をしている?」
────なにって、歩いてるだけだろ。悪いことしてねえのに名乗るのは嫌だね。
警官を前にして、いやに落ち着いている。のらりくらりと言い逃れするつもりらしい。はっきり指摘して態度の変化を探る。
「本当にそうかな。君は〝カイトウ・きっと〟の〝本体〟じゃないのか」
男が身構えるように向き直った。
当たりか。
街頭が逆光になり、男の口元しか見えなくなる。
─────へえ…なにか証拠あんの? 誤認逮捕だったらエライ事だぜ、警部さん。
「君を調べるための根拠ならある。任意同行願う。すぐにパトカーが来る」
─────言っとくけど、オレは〝きっと〟事件ではどんな細かいやつでもちゃんとアリバイがあるぜ。
「そんなもの意識して用意せん限り、普通はすぐに『ある』とは言えんだろう。君がやったのは犯罪煽動、犯罪教唆、証拠隠滅だ。実行しとらんのだから、そりゃあアリバイは一通りあるんだろうがな」
─────よくわかんねえけど、そんなんで逮捕の理由になんの?
「ああ、なるね。匿名サイトで面白おかしく〝カイトウ・きっと〟の話題を振り、第三者に犯罪を起こさせるよう仕向けて、さらに次々現れる〝カイトウ・きっと〟の素性が公にならないよう、ハッキングの腕を振るってネット上で彼らをフォローする。君がいるから〝カイトウ・きっと〟は捕まることなく増え続けているんだ」
─────へへぇ。なんでオレがそうだって分かるのかなぁ。
「君はいわば〝放火犯〟だ。小さな付け火をして、燃え上がるのをほくそ笑んでこっそり見に現れる。これまでに何度か〝きっと〟の現場に足を運んだだろう。野次馬を撮影した複数箇所の画像の中に君がいた。今夜もそんなところか」
─────ふーん、そこまでバレちゃってんのか。困ったな。
「!」
真後ろにもう一人現れた。
どっちがどっちか判らない、似たような風体の男。
─────惜しかったねえ、警部サン。〝きっと〟の〝本体〟って実は一人じゃないんだよねー。
─────面倒だからここでやっつけちゃう?
「おまえら、いったい…」
─────オレがさあ、ひとりでノコノコ動き回ると思う? んなわけないっしょ。こんな時のために頼りになる相棒がちゃんといるわけ。
─────ネットってケイサツが一番苦手な分野だもんな。遅れてんだよ、アタマ古いっつーか。ネット民を馬鹿にしてっから、こんな風に足をすくわれんだよ。
「言っただろう。すぐにパトカーが来る。二人ともおとなしくするんだ!」
─────間抜けなケイサツに、誰が捕まるかよ。
バチッ! 背後で火花が散った。スタンガン。正面の男の手元がキラリと光る。
─────ケケケッ、無能なケイサツはくだばれ! 〝カイトウ・きっと〟の鉄槌だ!
─────あんたをぶっ倒してネットに曝せば、ますます〝きっと〟が有名になるぜ!
武器を構えた男二人が、前後から同時に殺到する。やるしかない。
舐めるな、青臭いガキどもが!
─────うわっ!
前方の男が手を何かに弾かれ、怯んだように立ち止まった。すかさず後方から迫る男の腕を掴み、振り向き様足を払って腰に乗せ、くるりと回転させた。
いてえっと叫んだ男が路面に倒れ、七転八倒する。
「おとなしくしてろ! 肩を脱臼させただけだっ」
前方の男は? 逃げられたか。
ひゅう─────。
一陣の風が吹き抜けた。
覚えのある怜悧な気配にハッとする。
な、に…?
「差し出がましいとは思ったのですが」
詠うような声。
前方の男が、いつの間にか路上に昏倒していた。
その脇にトランプが一枚突き刺さっている。
まさか…?!
「か、怪盗キッド!」
緩やかに靡くマントのシルエット。
頭上の窓の手すりに立つ白い姿は、紛れもなく奴だった。
「キッド…!! 何故、貴様が?!」
「お疲れ様です、警部。しかしチームプレーが本来の警察の姿、スタンドプレーはいただけません。パトカーを呼んでなどいないのでは?」
「う、うるさいっ。こいつが〝本ボシ〟だと判ったらすぐに呼ぶつもりだったんだ!」
クスクスと怪盗が笑う。
何をむきになって怪盗に弁明しとるんだ、わしは。
カッカと頭に血が昇る。
だが、これは足下に倒れ込んでる連中に対するのとは全く違う感覚だ。血が湧く。
「怪盗キッド、そこを動くな!」
「残念ですが、今宵はもう失礼いたします。とんだ寄り道をしてしまいました。警部にはまた近日お目にかかる機会がありますので…。その時をお楽しみに」
「なにいっ?! 待たんか、キッド!!」
ポン、と吹き出す煙幕。
〝中森警部……私に似た名をかたって悪さを繰り返す不届きな連中を、一日も早く一掃して下さいますよう…〟
「キッド!!!」
気付けば、路地にパトカーのサイレンが近付いていた。お節介な怪盗が、わしのふりをして通報したのか。
まったく、キッドのやつめ。余計なことばかりしおって。
呻いている二人を拘束し、スタンガンの電源を切り、証拠品としてビニール袋に入れた。
「………?」
路地の隅に、光るものが落ちていた。
ナイフだった。刃渡り5.5センチ以上ある。立派な銃刀法違反だ。
キッドのやつ、わしに向かってきた男の手から、このナイフをトランプ銃で撃ち落としたのか…。
覚えとれ、キッド。この借りは倍にして返してやるからな!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
終電を逃してしまった俺は、仕方なく家に向かって歩いていた。
途中でお巡りさんに職務質問されないように気をつけなきゃ。
立ち止まって大きく一度伸びをしてから、俺は駆け出した。
20131013
────────────────────────────────
※お、お粗末様です…(*_*;
中森警部とキッド様の話をと思って書いてみたんですが、なかなかまとまらず~、突っ込みどころありありですが、エピソードの一つという事で軽く流して下さいませ(汗)。
●葉さまへ、聴きましたよ~! 返信は下記コメントにて♪
●拍手御礼!
連続でいろいろ拍手いただきました。どれも思い入れがあって嬉しいのでタイトル羅列しちゃいます。
「決意」「噂の二人」「ダブルムーン」「花言葉」「黒の鎖」「窮地」「禁断」「呪縛」「ホワイトブロッサム」「言伝」「生け贄」「嘘と嫉妬」「囚人」「袋小路の〝名探偵〟」「二人/新一と快斗」「エピソードX」「睡魔」「左手」「未明の道」などなど…うれしいです! ありがとうございました!!!!! (^^)/
[15回]