名探偵コナン・まじっく快斗の二次BL小説。同ジャンル諸先輩方の作品に触発されております。パラレルだらけですが基本は高校生の新一×快斗、甘めでもやることはやってますので閲覧は理解ある18才以上の女子の方のみお願いします。★印のカテゴリは同一設定で繋がりのあるお話をまとめたものです。up日が前のものから順にお読み下さるとよいです。不定期に追加中。※よいなと思われたお話がありましたら拍手ポチ戴けますと至極幸いです。コメント等は拍手ボタンよりお願いいたします! キッド様・快斗くんlove!! 《無断転載等厳禁》

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2011年8月26日よりブログ開始
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2013年6月 青山探索館 登録
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誘惑 (新一×キッド)


キッドが俺を手招く。

俺は――くらくらと眩暈に襲われながら――それでもその華麗な白い指先の誘惑に勝てず、キッドが立つ地上600メートルのタワーの突端へと恐る恐る歩を進めた。

風が舞う空の世界。かろうじて足元につながるのは僅かな歩幅のせり出した鋭角なスペースだけ。

キッドは口元に微かな笑みを浮かべ
『名探偵は高所恐怖症ですか』と俺に問いかけた。
否。特別にそういうわけではないが、遮るもののないこの高さからの眺めには少なからず恐怖を覚えるのが人間として当たり前の本能だろう。
平然と縁(へり)に立つことが出来るのは、余程その種の訓練をした者か、白い翼を自在に操る怪盗キッドくらいのものだ。

それでも俺は自分に向けられるキッドの眼差しに言いようのない高揚を覚え、跪いてその白い指先を手に取り、指先にくちづけたい――という想いに駆られて一歩一歩近付いた。
今にも卒倒するかというほど心臓が高鳴っていた。

『キッド、いま行くから…そこから動くな』

『お待ちしていますよ。此処まで来られたら、私を名探偵に差し上げましょう』

私を――、俺に? 本当か。

いま。いま、行く。だから逃げるな。肩越しに俺を見つめる怪盗に懸命に手を伸ばす。怪盗はじっとしていた。ただ真っ白いマントだけがふわりふわりとたなびいて――俺の焦燥をどうしようもなく煽る。

『――キッド……!』

手が……届いた。怪盗は逃げなかった。約束を違(たが)えることなく、俺がたどり着くのを待っていた。

これは夢か。

怪盗を白いマントごと抱きすくめる。
怪盗は…キッドは小さく笑ったようだった。『よく来てくれましたね、名探偵。ありがとう――あなたに捕まるなら――あなたに抱かれるなら、私も本望です』

後はよく覚えていない。現実だったのかそうでなかったのか。

確かにこの耳にキッドの吐息を感じた。この手でキッドのなめらかな素肌に触れた。
高所に舞う風の中で、一歩間違えれば真っ逆様に落下する突端の縁で、俺はキッドと重なった。白い指先を捉え、覗いた素肌を愛撫し、シルクハットとモノクルを外した素顔のキッドに口付けた。深く――深く、息が止まるほど、想いの限りキッドを愛した。



目が覚めると、まだタワーの最上階にいた。しかしキッドを捕らえた屋外の突端ではなく、展望室の片隅の長椅子の上で倒れるように眠り込んでいた。まるで夢精をしたかのようだ。あれほど確かに触れたと思ったのに、我に返って思い出そうとしてもすべてが曖昧で現実感は完全に失われていた。
俺は――本当に夢だったのかと――深夜の展望室には誰もいなかったが、居たたまれぬほどの激しい羞恥を覚えて狂うかと思った。

だが…俺の上着のポケットに、シルクの手袋が片方残されていることに気付いて、俺は〝安堵〟に震えた。
キッドが与えてくれた印(しるし)。
夢ではなかった証を残してくれたキッドに――堪えきれずに、俺はひとり…声を殺し涙をこぼした。




20110923



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