Love cuffs《3/3》(新一×キッド)R18
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どうして俺は名探偵に腕を掴まれた時、すぐに振り払わなかったんだろう。
何を言われても構わずに飛び立っていれば、こんなことには……。
(あああっ!)
くぐもった声が頭の中に響く。それが自分の悲鳴であると、灼ける意識の底でぼんやり意識した。
熱く重い下肢の痺れが背筋を伝い、キーンと響く耳鳴りに変わる。かと思うと引き裂かれるかと思うほどの激しさで体内を擦り上げられ、あまりの苦しさに意識が遠のいた。
逃がれようにも、自分の体ではないようにまったく身動きがとれない。
重なった体から波打つような振動が伝わってくる。体の芯がじわりと熱くなって……息苦しくて……頭がおかしくなりそうだ。
─────キッド。
誰だ…? 俺を呼ぶのは……。
─────キッド。愛してる〟
名探偵…。工藤、新一。
唇を噛む。
冴えた笑み。俺の行く先に当然のように現れ、俺を見上げるヤツの姿。
ふざけたヤロウだ。
自信満々で、容赦なくて。俺の邪魔をしては得意気に謎解きの講釈を垂れやがる目障りな相手。
なにが…俺もおまえを好きなんだろう、だ。
そんなはず、あるもんか。
これは仕方なく……逃れるために言いなりになっただけだ。
たかが男とのセックスを怖がって、許しを請うのが癪だっただけ。それだけだ。
カタン、と音がした。
モノクルが外れて落ちたのだ。
だが拾い上げる事はできなかった。穿たれる感覚に翻弄され、手が伸ばせない。
体内を突かれる衝撃は、さっきまでより緩やかになってきていた。
なぜだか、苦痛以外の感覚が沸き起こりそうな気がして……歯痒いような焦りを覚える。
俺は微かに目を開いた。
微かにキッドの反応を感じた。
見るとキッドが瞼を開け、小さく瞬きをしている。
オレはキッドから一度体を離し、キッドの体を仰向けにひっくり返した。すぐに脚を抱えて腰を持ち上げる。
いつの間にかモノクルを失った素顔のキッドは喘ぐように荒い呼吸を繰り返している。触れ合った肌が熱く脈打ち、再び互いの緊張が高まってくるのを覚えた。
「キッド…」
オレは手錠で繋いだキッドの左手に自分の右手の指を絡め、強く握り締めた。
少し驚いたようにオレを見上げたキッドの瞳は、濡れたように薄闇の中で光っている。
オレはキッドの中に既に一度放っていた。堪えようと思ったが、とても堪えきれなかった。キッドはかなり苦しそうにしていたから、気が付いてないかもしれない。
「大丈夫か、キッド」
「……………」
「そろそろ一緒にイくか」
「……手錠、さっさと外せっ」
「ふふ。まだそんな口きく余裕あんのか。朝まで引っ張ってもいいんだぜ」
「てめえ…、調子に乗んのもいい加減に─────」
減らず口をきくキッドの腰に火照ったオレ自身を押し当てると、キッドははっとしたように言葉を途切らせた。
そのままぐいと押してゆく。最初よりも抵抗は少なかったが、傷んでいるためかキッドが苦痛の呻きを漏らした。
「うう、くっ……」
じわじわとさらに奥へ穿ってゆく。キッドは顔を背け、唇を噛んで堪えている。
限界まで呑み込ませて動きを止めると、キッドは細い息を震わすように吐き出した。
オレはキッドの前に指を這わせてくるむように包み込んだ。先端に浮かぶ涙を指で拾い、くるくるとその周囲を撫でまわす。
抽挿はせずに体全体を使ってゆらゆらとキッドを揺らす。
キッドの肌がさらに熱を持ち、強く収縮してオレを圧迫する。
やがてキッドの喉から言葉にならない艶声が漏れた。
伝わっている。オレの高ぶりが…キッドの芯にも。
オレはキッドを圧すように揺らしながら、涙を滴らせるキッドの幹を握り締め、さらに高みへと追いたてた。
キッドが切なげに体をのたうたせる。それがオレ自身をも刺激し、後戻りできないまでに感覚を鋭くしてゆく。
体が震える─────その刹那、オレは無意識にキッドを激しく突き上げていた。
キッドが〝ああ〟と嘆息し、顔を仰け反らせる。
オレが再びキッドの中へ自らを放った時、キッドもまた白い雫を迸らせていた。
荒い息をついて倒れ込むようにキッドに体を重ねた。
いつの間にか、オレの肩にキッドの手が添えられていた。オレはキッドの髪をかき上げ、長い睫毛を伏せたその額に口付けた。
「気が付いたか」
「…………」
素顔のキッドが目を開け、ぼんやりと視線をオレに向ける。
先刻までの余韻を漂わせたまま、オレたちは肌も露わに身を寄せ合って寝ころんでいた。ひんやりと心地良かった床が、そろそろ冷たく感じるようになっていた。
「あ……、いま、何時だ…?」
キッドが小さな声で訊いてきた。
「もうすぐ3時だ。夜明けまで、まだ間がある」
「……………」
ガチャ。キッドが腕を動かすと、オレと繋がった手錠の鎖が音を発てた。
キッドがぎょっとしたように目を瞠る。
「外れてないのかよ、これ!」
「一度だけじゃな」
「な…なんだとっ」
上体を起こしたキッドがオレの襟首を掴んでグイと引っ張る。オレも体を起こし、背に手を回してキッドを抱き寄せた。頬に頬をくっつける。
「……ま、さか、騙した…のか…?」
「慌てんな。どうせすぐには起き上がれなかっただろ」
「ふざけんな! 離れろ!!」
「分かったよ。そう怒るな」
オレはキッドの右手をとって錠のギザギザの部分をグッと押した。反動で輪がカシャンと外れる。
「…………」
自由になった自分の手を呆然と見つめるキッドの前で、オレも自分の左手首の錠を外した。
「……おい」
「言っとくが、オレがおまえに繋いだ本当の手錠はまだ外れてないぜ」
「なんだ…いまの……」
「オレはおまえの心に手錠をかけたのさ。何度でも一緒にイけるように」
「い、いまのは、なんだって訊いてんだ! 鍵、掛かってたんじゃないのかよ!」
膝立ちしたキッドは上衣をはだけ、下肢は裸のままだ。オレの視線にキッドが慌てたように床に投げ出されていた服に手を伸ばす。
オレは正直に打ち明けた。
「これは恋人向けの、ただのオモチャだ。鍵はもともと付いてない」
「………」
数秒絶句した後、キッドはオレに背を向け、ぎくしゃくと立ち上がった。服を身に着け始める。
ふっふ、ふざけや、やがって!!! と、噛みながらタイを結ぶキッドの背に微笑んだ。
「こんな簡単に信じるとは思わなかったが…。怪盗のくせに、おまえは妙にシャイで真正直なトコがある。オレはそんなおまえが大好きなのさ」
オレも服を着て立ち上がった。
モノクルと手袋を付け直したキッドがマントを肩に掛ける。
シルクハットを拾い上げてキッドに差し出すと、キッドはいつものポーカーフェイスに戻ってオレを振り向いた。
「次の予告状、待ってるぜ」
「…………」
「おまえが怪盗をやめてオレを受け入れてくれるまで、オレはおまえを死なせない」
何か言うか、殴りかかってくるかと思ったが、キッドはオレの手からシルクハットを受け取ると無言で頭にのせ、元通りの澄ました怪盗になった。
さっきまで熱く肌を重ね合わせていたのが嘘のようだ。
オレがじっと見詰めても、キッドはもうオレの存在などないかのように背を向け、ドアを開けると屋上へ出て行った。
キッドがゆっくりと屋上の縁へと歩いてゆく。
キッドが去ってしまう。
そう思うと、オレは不意に淋しくなった。走ってキッドの背に追い縋る。後ろから抱きついた。
「キッド!」
「まだイチャモンつける気か! 離せ!」
「愛してる」
「しつこい!」
「わかってくれたんだな、オレの気持ち」
キッドがオレの腕を掴んで引き剥がす。
僅かに欠けた月が輝く未明の街に、遠く車のクラクションが響いていた。
「……いつか、外してやる」
キッドが呟いた。
「おまえの見えない手錠」
白い翼が遠ざかって行く。
オレは屋上の隅に立ち尽くし、キッドが街の灯りに紛れ判らなくなってしまうまで目で追った。
消えてしまったキッドに向かって、最後にオレは告げた。
〝絶対に外れないさ〟と。
20130325
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※あとがき
最初からこうしようと思っていたわけではないのですが、名探偵のハナシは結局ウソだった…とベタですがオチをつけちゃいました。少々長引いてしまい、始まりと終わりでテンションが変わってしまったかもです(汗)。傲慢ではありますが名探偵は怪盗にゾッコン、という事でお許し下さいませ~ (*_*;
★拍手御礼
匿名希望さま、傲慢探偵の不遜な態度をいっそ清々しいとまで言って下さり、ありがとうございます(笑)。〝我田引水〟恥ずかしながら私の脳内辞書になかったので調べました(^^;)。お陰様で一つ四字熟語覚えましたー!
林檎さま、キッド様が「絶対言わないけど名探偵に惹かれているんでしょうね。そんなところが可愛い」。ズバリでございますっ。感想ありがとうございます(*^^*)!
あふる様、白快カテゴリ「放課後」へ拍手連打とコメントありがとうございます!! 思わず久し振りに自分でも読み返しちゃいましたー(^。^;)! しぶへ返信させていただきますね♪
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