不協和音(新一×快斗)R18
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キッカケは些細なことだ。
快斗が買ってきたパンにレーズンが入っていて、食えよ、食わねえ、旨いから食え、いらねえ、とかから言い合いが始まって、苛々が吹き出した。
外は大雨で湿度が高く────ストレスというか普段抑え込んでる不満とか不安とか…まあイロイロと溜まってるもんがあったせいだろう。
返事をしない快斗の腕を掴んで振り向かせ、その手を思い切り振り払われたところで完全にひっくり返った。オレの心に溜まっていた何かが。
ドンと両肩を押すと、快斗がソファーに脚を引っ掛けてカーペットにすっ転んだ。かっとしたまま快斗をとっ捕まえようと屈んだら、跳ね起きた快斗にタックルされて快斗の頭がまともに腹に入った。
こうなったらもう訳が分からない。
もつれるように倒れて殴り合って絡んで蹴っ飛ばして、そして力任せに引っ張ったシャツがビリリと破けて快斗の腕の包帯が目に飛び込んだ。
オレがハッと動きを止めると、快斗も慌てたように腕を庇って半身を引いた。
はあ、はあ、という互いの乱れた呼吸が雨の音に被って耳に響いていた。それにドンドンと鳴る心臓の音が重なって────不協和音が増殖する。
ベクトルが転換するのは早かった。
ぐいっと快斗の頭を両手で捕らえて口付けた。口の中が切れていたのか、キスは血の味がした。
吸血鬼になったような気分で夢中で吸い続けてると、快斗はううんと唸って首を振った。
工藤はやっぱりおかしかった。
ぶっきらぼうにそっぽを向いて、話しかけても生返事で。
俺も数日前に負った傷がまだ疼いていたし、ここへ来る途中で車に水を引っ掛けられてムカついてたから余計にギクシャクして。
買ってきたパンを一緒に食べ始めたけど、一口かじったパンを工藤が投げ出したから文句を言った。
で、気付いたら喧嘩になっていた。
工藤は特に普段から理性的であろうとしてストレスを溜め込むタイプだ。何かの拍子にバランスを崩すとその〝バケツ〟がひっくり返って凝縮された中身が巻き散らかされる。側にいたら一緒に中身を浴びて酷い目に遭う。
こんな天気だ。電話の声で今日あたりヤバいかもしれないなぁとか漠然と予想はしていたんだ。それなのに逢いに来てしまった。
当たる相手もないまま臨界を超えた工藤がどうなるか……なんて大袈裟かもしんねーけど、考たらそれが俺のストレスになるから。
馬鹿みたいだけど。
放っときゃいいと頭では思っていても放っておけない。
アホみたいに立派な屋敷に独りで居る工藤が自分で気が付かないほど溜まってるストレスの重さに押しつぶされておかしくなっちまうんじゃないかと────俺は本気で心配していたんだ。
急速に高まった勢いのまま押し貫かれて、苦しさにソファーの上で仰け反った。
交わった部分が熱い。奥を衝かれる激しさに脳髄が灼かれて瞬く間に焦げてゆく。
「…っ、あ!」
不意に煽られて、思わず抑えていた声が漏れた。
〝快斗…〟
名を呼ばれた気がして、怖々薄目を開けた。工藤がどんな顔して俺を貫いているのか、あまり見たい状況じゃなかった。
微かに工藤の口元が見える。
工藤の吐息。
ああ…。
睫毛にキスされて、工藤が〝収まりつつ〟あるのが判って、俺は逆になんだか切なくなった。
胸が軋む。ギィギィと壊れかけた扉みたいに。
ゴオゴオと吹き付ける雨と風の音と、ドクドクと湧き起こる強い衝動。
全部が一度に鳴っていた。
俺の頭の中で不完全で不格好な〝不協和音〟が渦を巻く。
こんなに切なくて、苦しくて、落ち着かない気持ちにさせる音が─────他にあるだろうか。
想っていても、繋がっていても、どうする事も出来ないことはある。それが悔しくて…。
「快斗」
今度はハッキリ聞こえた。
俺は目を開けた。
工藤の赤く泣きはらしたような目が俺を見つめていた。
「───ばか、泣きたいのは」
こっちだ、と言いかけた自分の声も熱く湿っているのに気付いて唇を噛んだ。
肩に手を入れられ、抱き寄せられて息苦しさに呻いた。
痛む腕をなんとか持ち上げて、俺も工藤の首に手を回した。
唇が合わさると、体の奥が反応するのが解った。気が遠くなる。
ずれていた工藤の音と俺の音がその瞬間ひとつに重なっていた。
溶け合った余韻を放したくなくて、俺はそのまま目を閉じた。
目が覚めると暗くなっていた。
灯りが点いてない応接は薄暗かったが、取っ組み合いとそれに続く無茶なセックスのせいでテーブルは大きくずれて、上にのっていたはずの皿やコップはひっくり返ってコーヒーやミルクがカーペットに染み込んで… とにかく修復不能に混沌としているのが判った。
まあいいや。俺んちじゃねえし(以前俺んちで工藤と喧嘩した時は翌日の片付けが大変でものすごく迷惑した)。
体には一枚ブランケットが掛けられていた。工藤のヤツはと様子を伺うと、俺の横、ソファーのすぐ下にアンダーだけ身に着けてグウグウ寝込んでいた。どうせ寝不足だったんだろう。一度起き上がったようだが今夜の片付けは諦めたらしい。
工藤の規則正しい寝息と、静かになった外の風に靡く木の葉の音がシンクロしていた。
嵐は治まったんだ。
ソファーの上から手を伸ばして工藤の髪をそっと撫でた。目が覚めたら、あまり〝溜めすぎない〟ように注意しよう。
溜めすぎるとろくな事にならない。今日の俺たちのように。
20130916
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※うーむ(@@)もっとR18な目標で書き始めたんですが、いつものパターンに陥り…台風18号通過中の影響もあってこんなんなりました。細かいところハッキリしませんがご想像にお任せです…スミマセンー(*_*;
●拍手御礼!「加虐実験」「魔法の塔」へ拍手ありがとうございました(^^)/
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