★拍手御礼
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白昼夢(白馬×快斗)
※一応、単独パラレルのつもりです…。
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僕は睡かった。
なにせ一昨日早朝に渡英し、一泊もせずに日本にとんぼ返りしてきたのだ。時差云々ではなく、これでは頭が働かない。
昼休み。
ふと見やると、窓際の席で黒羽が机に突っ伏して眠っていた。
暖かな陽を浴びて、見るからに気持ちよさそうに。
なんだか少し口惜しいような気分になって、僕も少しだけのつもりで腕を組み目を閉じた。
伸ばした手を、白いマントがすり抜ける。
気障なモノクルを光らせ、シルクハットのつばを白い手袋の指先で軽く抑えた彼が。
〝怪盗キッド〟が…僕を振り向いて微笑む。
─────逃がすものか。
だが彼は軽々と身を翻し、追いすがる僕を振り切った。
輝く半月を背に頂いて立つ美しいシルエット。
よく通る声が僕の心の鐘を打つ。
〝ご機嫌よう、白馬探偵。また月下の淡い光の中でお逢いしましょう〟
そう、告げて───。
白馬。起きろよ。
物理室に移動だぜ。
────キッドの声。
うすく目を開けると、目の前に怪盗キッドが立っていた。
このチャンスを……逃してはならない!
(ガターン!!)
『キャアア!』『わっ、なんだ?!』
怪盗キッドを捕まえ、僕は床に倒れ込んだ。
何かを倒したのか、響き渡る音と騒々しい声が聞こえてくる。
────誰かいる…? やじうまか?
「おおーい! 白馬が寝ぼけて快斗をおそってるぞー!」
「白馬やるう!」
「きゃあ、やだぁー♪」
「快斗ぉ、気ぃつけろよ!」
あはは、きゃあきゃあ、と騒ぐクラスメートたちに、僕はようやく気が付いた。
捕まえた相手を見下ろす。
「………黒羽…くん」
「重めーぞ、白馬! 早くどけっ」
パシャ、と携帯のシャッター音に気付いて、僕は今度こそ我に返った。
「バカやろ、写メなんか撮ってんじゃねぇよ!」
黒羽が携帯を構えた悪友に怒鳴っている。
「…………」
抱えていた黒羽から手を離して体を起こしたが、あまりのことに正座したまま動けない。
察するに……状況はおそらく、居眠りをした僕が夢に現れた怪盗キッドを逃すまいと懸命に手を伸ばした結果────
捕まえたのは、そばに立っていた黒羽快斗だったということか。
僕としたことが。
一気に熱が上がったように汗が出た。
もっとも、僕にとっては〝怪盗キッド=黒羽快斗〟なのだから間違ってはいないはずだ。だが、クラスメートとして過ごしている今、この状況では弁解しようもなく僕が赤っ恥をかいたことに間違いなかった。
「起きろよ、白馬。おめーがしゃんとしねーといつまでも騒ぎが収まんねぇ」
「…………」
差し出された黒羽の手を見つめ、少しだけためらったがその手をとり、立ち上がった。
「ホラ行くぞ! 早く移動しねーと……」
五時限目開始のチャイムが鳴った。
僕らを取り巻いていた残りの生徒たちもバラバラと廊下へ走り出ていった。
不幸中の幸い(?)、五時限目が始まる直前だったため、みな別の教室に移動中でこの失態を目撃されたのはごく少数だった。
とはいえ。
……誰か写メ撮ったと言わなかったか。
僕は前を走る黒羽の背中を見つつ、廊下を物理室に向かいながら自己嫌悪の谷へ墜ちていった。
そもそも、この失態の原因そのものも〝彼〟によるものだ。
先週末、ロンドンの街を駆け抜けた〝怪盗〟予告騒ぎ。
日本を舞台に世界を賑わしている〝怪盗キッド〟が、次はイギリスに現れると大きく報道されたのだ。
在英の知人が宝飾品関係者で、その知人の依頼で僕は訝りながらも長時間かけ海を渡ったのだが……結局は無駄足だった。
本物の〝彼〟が日本から動いていなかったのだから、当たり前だ。
しかし黒羽の行動を掴みきれなかった僕は、渡英前に知人にはっきり偽者だと断ずることが出来なかった。
……おかげでこのザマだ。くそう。
ロンドン市警に協力し、キッドを騙った犯人グループ(宝石専門の国際犯罪集団)の逮捕を見届け、僕はすぐさま帰途についた。
そして今度は成田行きの飛行機内で広げた英字ペーパーに『怪盗キッドが新東京ベルツリー美術館に現れる』という予告記事を見つけたのだ。
────まったく。
だから、僕は焦っていた。
同じ高校生探偵の工藤新一が鈴木財閥会長直々の依頼を受け、怪盗キッドと対決すると記事にはあったのだ。
さらにその上、とても睡かったのだ。
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「白馬」
終業のチャイムにホッと溜息をつき、早く帰ろうと席を立つと黒羽に呼び止められた。
いくつかの好奇の目を感じて少しばかり居心地が悪い。おそらく、あの失態を目撃した連中だ。
「…………」
促されて教室を出たところで、黒羽が僕を振り向いた。
「さっきの写メは消させたから」
「え……」
「人の失敗を笑いもんにすんなって言っといたから、大丈夫」
「あ…、ああ。…さっきは失礼した」
謝罪すると、なぜだか黒羽の頬が赤くなったように見え、と思ったら僕も顔が熱くなった。
今日はとにかくおかしい。どうも調子が狂う。
「そんじゃな。帰ったらよく寝ろよ。ロンドン弾丸ツアーの疲れが残ってちゃあ、キッドはますます捕まえられねぇぜ」
不意をつかれ、ハッとする。
ふっと笑った黒羽の瞳が、不敵な〝怪盗〟のものになっていた。
「なぜ、それを?!」
「ネットのニュース画像に映ってたぜ! 白馬探偵」
「黒羽くん!」
焦っていた心を見透かされた気がした。
黒羽はもう振り向かず、そのまま階段へと走り去った。
黒羽快斗。
君は、いったいどうして敵である〝探偵〟の僕に対し、こうもてらいなく接することが出来るのだ。
僕は…君が解らない。
解らないからこそ、読み解きたくてたまらないのだ。僕は君が知りたくて────怪盗キッドに近づきたくて、たまらない。
怪盗に魅入られた事を、僕はもう認める気持ちになっていた。
どうしようなく。
怪盗の真実を掴みたくて……僕は君を追いかけ、手を伸ばすだろう。
風に靡く白いマントに。
まるで白昼夢のような君の後ろ姿に。
20121022
[13回]