紅の霆(いかずち)《2/2》
※まじ快ベース小咄です(..;)。
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『黒羽くん、取り合えず逃げましょう!』
白馬の顔した〝小さな動く人形〟が喋った。俺に向かって。
理解不能な状況なのに、困惑より〝面白さ〟を覚えてしまうのは俺の悪い癖だ。
こんな事は有り得ない。
絶対起こり得ないハズなのに。
いま、俺の服のポケットには〝もぞもぞ動く小さな生き物〟がいて。
どうやらそいつは小人になった白馬探らしくて───なんて、お伽話じゃあるまいし!!
〝お伽話〟。
聞き覚えのある甲高い女の嗤い声が不意に脳内にこだまする。
まさか…〝魔女〟が?
───魔女なら、やるかもしんねえ。
だってここは本物の魔女が存在する『まじっく快斗』の世界。
〝東の高校生探偵〟が小さくなった〝アチラ〟の世界線とはちょっとばかり違うのだ。
つまり、ある意味何でもアリ。
そう思ったら、これは間違いなくクラスメートのあの魔女の仕業に思えてきた。
もしかしたら…俺を〝小人〟にしようとして、居合わせた白馬が俺の代わりに小さくなっちまったんじゃねえのか?
まさか、だとしたら白馬は巻き添え──…。
『ここはもしや黒羽くんのご自宅ですか!?』
玄関に鍵をかけるとポケットからコビト白馬が顔を出した。
仕方ないからそうだと返事をする。
『僕の服は…』
「持ってきたよ。ほら」
マジック用の絹のスカーフにくるんだ白馬の衣類と靴を見せてやると、ポケットに両手を添えて心配げな顔を覗かせていた白馬が俺を見上げてニコッと笑った。
可愛い。
いやいや。
リビングのソファに落ち着いて、ポケットから白馬の細い体をそっと掴み出した。
「アレ、おまえ」
『ハンカチ、失敬して使わせてもらったよ。裸のままでは紳士としてあまりに情けないからね』
白馬のヤツ、ちゃっかり俺のハンカチを体に巻き付けて古代ローマ人みたいな姿になってる。
小さくなっても白馬は白馬だ。
「だけどパンツ履いてないだろ」
『わあ』
ペロッと裾を摘まむと白馬は慌てた声を出して真っ赤になりやがった。
超可愛い~。
いやいやいやいや。
『…こんな形で君に僕のすべてを見られてしまうなんて』
「すべてって、オーバーだなぁ」
俺が笑うとミニ白馬は俯いてしまった。
手のひらに乗っけたまま持ち上げて顔を覗き込むと、なんだか泣きそうな顔になってる。
「ウソだよ。見てねーよ。さっきは暗かったしさ」
『本当ですか』
「ほんとだよ」
ハンカチのローブから出ている肩が白くてツヤツヤ光っている。最初に見たときも思ったけど、なめらかな陶器みたいだ。
「お人形さんみてえ…」
『えっ』
あっ、声に出てた(..;)。 何故か焦る俺。
「今夜は特別に泊めてやっから、寝ろ」
『眠れませんよ。これからどうしたらいいのでしょう。もし、このまま元に戻れなかったら』
「あー、まー、…そんなに心配すんな。寝て起きたら戻ってるかもしんねーしよ」
『何を根拠に』
「戻らないって根拠もねえだろ」
『それはそうですが……。ところで君は何故あそこにいたんですか』
「は? 決まってっだろ、キッドのショーを見に行ったんだよ! 怪盗キッド、今夜も最高にカッコ良かったなぁ!」
『本当に…?』
う、上目遣いすんな、可愛すぎるだろ、白馬のくせに!
『黒羽くん?』
白馬が俺の指先に自分の手を置く。
小人の手、ちっせえ!
なのに指はやっぱり長くてとても綺麗だ。壊れてしまいそうに繊細で──。
ちゅ。
(はっ)
吃驚したような白馬と目が合う。
俺もビックリしていた。
無意識に白馬の小さな指先に唇を寄せてキスをしていたのだ。
ヤバイ。可愛すぎてこのままだとチビ白馬が手放せなくなる。
「タ、タオルでベッド作ってやるよ。先に寝てな。俺、風呂に入ってくるから」
『あ…それなら僕もシャワー浴びたいです』
なーんでこうなる。
湯船に浸かりながら、ついウトウトしちまう。
目の前に浮かべた浅く湯を張った洗面器には、これもハンカチサイズのミニタオルを体に掛けてウトウトしているチビッコ白馬がいる。
小さいくせに睫毛が長いなぁ。鼻梁が高くて、日本人離れしてる。
綺麗っていうか、美人っていうか…。
「う~…ん…」
このところの寝不足と、すーすー微かに聞こえるミニチュア白馬の寝息につられ、俺も重たくなったまぶたを閉じた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
頃合いね。
ルシュファーの魔力によって水晶に映し出された二人の様子に、私は微笑んだ。
この二人。白馬探と黒羽快斗。
二人してこの私をぞんざいに扱った罰よ。
まったく…、どちらも互いを想っているくせに、自分の気持ちに気がつかないまま探偵だの怪盗だのと面倒なこと言い合って、まどろっこしいったらありゃしない。
そのせいで私はとんだ道化を演じさせられてきたんだわ。
あああ、本当に頭にくるっ!
いいこと。今こそ、赤魔術を司る正当な魔女である私の力を見せてあげるわ。
うふふふ…これまでの怨み、晴らさせていただきますわよ。よろしくて?
白馬探。
黒羽快斗。
いい加減にお互いを認め合うのよ!!
互いが避けられない運命の相手であることを。
紅い霆に撃たれ、思い知るがいい!!
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
》》ピシィッ、ドォオオオーーーン!!!《《
「…うわっ?!」
物凄い轟音と振動に飛び起きた。
バシャンと跳ねるお湯の音。
何が起きたか判らず、俺は焦って顔を上げた。
狭い。そして熱い。
なんで…?
あ、俺、風呂に入ってたんだ!
真っ暗で何も見えない。
停電か?
「ん!?」
「あ、あれ…? 僕はどうしたんでしょうか。黒羽くん?」
「うわわわっ! は、は、白馬っ!」
狭いはずだ、真っ暗で見えないが、小さくなってた白馬が元の大きさに戻ってる!
元の姿の白馬が俺に密着してる。
なんで?! どうして?!
しかも! 風呂の中!
俺も白馬も素っ裸!
うわ、触るな(@@);;!!
「落ち着いて、黒羽くん」
「ば、ばか、落ち着いてられるか、離れろっ!!!」
「真っ暗の中を動いたら危ないです。僕も君も…たぶん熱くてノボセてますし」
そりゃ確かにノボセてるよ。
熱いし! 狭いし! 息苦しい!
何も見えないくて、身動きしたくてもできないし!
肌に触れてる白馬の体の重みに圧迫されて…
おかしくなりそうだ。
「も、無理、俺出る!」
「危ない、黒羽くん!」
訳が分からない。真っ暗で、とにかく窮屈で。
と思ったら、白馬に抱き締められてた。
うわわあああああああああっ、あまりに異常な状況に、俺のオレがのぼせ上がって膨らんでる!
「ぎゃ、うわ、放せ! 離せ、馬鹿、はくば───っ……?!」
柔らかい物が頬に触れていた。
大きい手、長い指が俺の項(うなじ)から頭を支えてる。
「黒羽くん、お願いですから落ち着いて。ビックリしてるのは僕も同じです。でもこんな状態で慌てて動き回ったら怪我をします。もう少し…このまま……」
直に伝わってくる穏やかで甘い白馬の声。
どくんどくんと脈って震えてるのは、俺の体か?
しかたなく息をすーはーして、ようやく少しずつ俺はこの状況に慣れてきた。
さっきからずっとうるさかったのは、俺が暴れてお湯がバシャバシャ跳ねてたからか…。
濡れた体にもう一つの鼓動が響いている。
これは…白馬のか。
白馬の鼓動と、俺の鼓動が…ぴったりくっついて…お互いの体に伝わって反響してるんだ。
「……あ」
頬に添えられていた柔らかなもの。たぶん白馬の唇が、そっと俺の唇に重ねられるのが解った。
温かくて、優しくて。穏やかで泣きそうになる。
どうしてかは解らない。
だけど、これまで別々に生きてきたことが不思議に感じるくらい、こうしてくっ付いている事が自然に思える。
白馬。
白馬…───。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「お嬢様、あまり長時間のお力の行使は体に毒でございます。夜明までもう間がありません。お休み下さい」
「ちっ」
「は…。今〝ちっ〟って舌打ちされましたか?」
「お黙り! この私がそんな品のないことする訳ないでしょう」
「はあ」
確かに、もう午前3時を回っている。
続きがものすごく気になるが、二人が私の赤魔術にまんまとはまったのはもはや疑いの余地はないのだし───というか、もともと想い合ってた二人の箍(たが)を外す後押しをしてやっただけなのだし…。
「まあ、良いわ。確かにこれ以上の覗き見は野暮というものね」
「お嬢様、何を覗き見されてたのですか」
「うるさい! 違うわよ! 赤魔術の効き目を確かめていただけ。あっちへお行き!」
肩を窄めた従者が礼をして退散する。
ルシュファーを呼び出した紅い焔も、どうしたわけか急激に消えかかっていた。
眠い。
まあ、このあとの成り行きは明日またルシュファーに尋ねよう。
ああ、やっと眠れるわ。
まったく世話が焼ける…。
万が一、これで何もなかったなんて事があったら本当にどうしてくれよう。
次の手を考えておかなくては……。
あの二人が真実に目覚めるまで、何度でも呪ってやる。
呪ってやるわ……。
20200531
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※なかなか後半upできず、お待たせしたわりに大した展開もなく(-.-;)。以前白Kカテゴリでupした「フェアリーナイト」というお話の逆バージョンでした。アレもコレも紅子ちゃんががんばってくれてるおかげです(^_^;)。
さて今回は二人が紅子ちゃんの目論見通り〝一線を超えられるか?〟それはあなたのご希望次第!という事でお茶濁してスタコラ逃げます~(..;)(..;)。
●拍手御礼
「恋患い」「秋の音」「同棲未満」「パンドラ~エピローグ」「アブノーマルII」「未明の道」「浮気」「ダブルムーン」「黒の鎖」「怪盗の香り」「相方」「約束の場所」「Halloween night」「怪盗の落とし物(新一編)」「夢遊飛行」「punishment day」「後の先」
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