暗中模索(新快前提 平次→快斗)
※軽めを目指しつつ、展開に迷った結果がこのタイトルです…(*_*; ────────────────────────────────
「黒羽。キスしてええか」
「だめに決まってっだろ、どあほ」
ちっ、と服部が舌打ちする。
工藤んちで鉢合わせた服部は、俺を見るとニコニコしながら寄ってきた。
やっぱりわんこを連想する。精悍だけど人懐こくて尻尾ふりふり。だからか、どうも服部を憎めない。
「なんやねん。自分そない身持ちが固たいヤツだとは思わんかったで」
「どーゆう意味だよ! 失礼だな」
人をなんだと思ってんだ。俺は服部を睨み付けた。
おおう、と服部が喜ぶ。
「ええなー、その目。たまらんわ。口説かずにはおられへんで」
怒っても逆効果。どこまでもアッケラカンとした服部はふざけてるんだか本気なんだか判らない。
「工藤にそない惚れとんのか」
「…誰が」
「ほう。なら義理立てせんかて」
「べつにそんなんじゃねえよ」
「はは。顔赤こうしよって妬けるのぅ。工藤のどこがそないええんかいなー。オレかてけっこうイイセンいっとるつもりやけどな」
「だからべつに工藤のことは」
「よう聞け、黒羽」
「なんだよ」
肩を組むようにして抱かれる。女じゃねえし、このくらいでキャアとか言って避けるのも変だし、とりあえず大人しくしとく。
「工藤はまだ帰って来いへん」
「どこ行ってんだよアイツ」
「警視庁や」
「服部は一緒に行かなかったのかよ」
「オレかてついさっきココに着いたんやで。工藤め、客人をもてなさんとホイホイ謎解きに釣られて行ってしまいよった」
「いつものことじゃん。 俺なんかしょっちゅう待ちぼうけだぜ」
服部がニッコリ笑う。しまった、つまんねえ事しゃべっちまった。
「可哀想にのう。そんで今夜も待ちぼうけかいな。オレがおってよかったのう。ひとりでこんな屋敷におったら、そらぁ淋しいやろ」
「わっ」
突然、服部に足を払われた。腕も取られて受け身がとれない。ソファの上に倒されて、そのまま押さえ込まれる。
「ば、ばかっ、なにすん…」
「黒羽。勘違いするなや」
「なにを」
「マジやぞオレは」
「マジ…って?」
「おまえが好きや言うてんねん。こんなチャンスはないよって」
目の前に服部の黒い瞳が迫って言葉を失う。え? うそ……。
(あっ)
キスされた。服部に捕られた腕が動かせない。顔を背けると耳元に唇が移り、ゾクッとする。
「やめろっ、服部!」
「そのまま大人しくしとれ黒羽…、暴れよったら当て身食らわすで」
「服部…っ」
「おまえの意識がのうなっても、やめへんで」
うそ。うそうそ…嘘だ!
一気に戦慄が走る。
服部はこんな事するヤツじゃない!
無理やり、こんな────。
「やめろ、服部っ! やめろ!」
「黒羽…本当に嫌やったら、抜け出してみい」
「…………」
「本気で抵抗してみい。出来ないんやったらこのまま大人しくしとれ」
俺は暴れた。服部の下から抜け出そうとして。服が破れる音。額が服部の顎に当たって、ゴツンと鈍い音が響いた。
「……それで本気かいな。外せんのやったら、いただきや」
「やっ……!」
服部の指がシャツの下に入り込む。俺はとうとうギブアップの悲鳴をあげた。
「やだーっ、助けて、工藤ーっ!!」
はぁはぁと荒い呼吸の音。
自分と、覆い被さる服部の。
服部は手を止めていた。
「服部のバカッ。どけよっ」
情けないが、声が震えていた。
「────ああ。残念や…。なんでやめてまうんやオレ。絶対いただくつもりでおったのに」
「…………」
「せやけど〝助けて工藤〟言われたら、さすがに折れるわ」
「…なんだよ、それ」
俺が『助けて工藤』って言ったのか?
覚えてない。ただ怖くなって…叫んで。
服部は大きく息を付くと『おおイテ』と顎をさすり、それから腕を掴んで俺を引き起こした。どすんとソファに並んで腰を降ろす。
「謝っても無駄やろうから謝らんで、黒羽」
「…………」
シャツを直す。指も震えていて、自分がどれだけ追い詰められていたか思い知る。服部が気を変えなければ、俺は本当に……。
「そない打ちひしがれた顔すんなや」
「……手も足も出なかった。服部とこんなに力の差があるなんてショックだ」
「まあ、そらポジショニングと、意識の違いやな」
「………」
俺に油断があったって事か。
服部は〝いいやつ〟だから、警戒心が薄かったって事か。
「うう」
「ああー、泣くなや黒羽~」
「うるさい!」
「ハイ。今夜はもう悪させんよって安心せえ」
「なにが安心せえだよ! 今夜は…って。服部のアホウ!!」
「ハイ。もう何とでも言うてくれ。オレもヘコんどる。あああー、嫌われ損や。どうせ嫌われるんやったら最後までやらなアカンかったんや。なのになんでやめたかなー」
「服部の馬鹿」
「ハイハイ。馬鹿や」
「大馬鹿!」
「ハイ。気が済むまで罵倒してや」
「済むか! チクショウ。体鍛えてやる。次は俺が襲ってやる~」
俺は半泣きしながら、でも最後は二人で笑っていた。
こんな目に遭っても、やっぱり服部を本気で憎めなかった。
工藤に一つ秘密ができた夜だった。
20121214
[9回]