★拍手御礼
・マユミ様「別れの季節」への拍手コメ&インターセプト推し表明、ありがとうこざいます!(^^)! とっても嬉しいですー!
・林檎さま「奇跡」「ランデヴー日和」「別れの季節」へそれぞれ拍手コメありがとうこざいます。ちゃんとわかりますよ~!!
ほか、拍手くださった皆様、ありがとうこざいます。元気出ましたー(*^^*)//
耳鳴り(平次×キッド)
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わあん、と、音が響いとる。
ほんまに響いとるんか、耳鳴りなのか。
目を凝らしたが、薄暗うて周囲の様子がよう判らん。俺はガックリして地面に大の字に寝ころんだ。
───── 平次ィ? なにやっとんの? さっさと起きな、遅刻やで!
…うっさいのう、和葉。眠いんや。ほっとき。
───── 独断専行ですか。まったくキミは熱すぎる。野蛮と言うべきか。
…白馬。おのれにとやかく言われんでも、俺には俺のやり方があるんや!
───── なにが高校生探偵や。未熟モンがいい気になりおって。
…うっせーわい、キツネ目親父! 未熟なんは自分が一番わあっとるっちゅうんじゃーーっ!!
わあん、わあん、と、音が響いとる。
んん…? どこやったか、ここ。
「ばーろぉ、いつまでも休んでんじゃねーぞっ、服部!」
また声がした。上からや。今度は工藤やないかい。
「なんや~夢の続きかい。クソ親父の声でムカついて目ェ覚めた思うたのに、どんな順序やねーん」
「寝ぼけてんじゃねえ、起きろっ服部。日が暮れたら気温が一気に下がるぞ。今のうちに早く出てこい!」
「んな、ゆうたかて…」
体を起こす。肩や背中、腰、肘、そこら中がギシギシいっとる。
「ああ……そや。思い出したで」
落ちたんや。吹田の旧家〝東尾屋敷〟その納屋の落とし穴に。
まんまと犯人に嵌められてもうた。
「ちぃ。なっさけないのう」
ボヤキながらポケットの携帯を取り出した。だが長押ししても起動せん。落ちた時に衝撃で壊れたんか。
納屋が暗いせいか、穴の中はほとんど見通しが利かんかった。
「……工藤、ホンマにおるんか? どうしてここがわかったんや!」
「いるよ。府警の遠山刑事部長に聞いたんだ。今、縄を下ろすからな」
遠山の…? 俺がここに来ることは知らんはずやのに……。
上まで4~5メートルってとこやろか。下は畳か。古くは隠し部屋か、もしかしたら座敷牢のように使われとったのかもしれん。そう思ったら、地下の冷気にぞくりときた。
少し待ってると、上から縄が落ちてきた。
「おおーい、登れるかー?」
「楽勝や! ……あら?」
「どうした、服部」
「あかん。左手が…」
握れん。なんでや。
「服部?」
「工藤、せっかくやが登れん。打撲のせいか左手に力が入らんのや。すまんが人を呼んできてくれ」
「うーん…メンドくせえなぁ」
「ああ?」
「仕方がありませんね」
工藤だと思って話していた相手の気配が変わった。何かが穴に飛び込んでくる。
ふわりと降ってきたもの。
呆然とする俺の目の前に降り立った人物が、すっと体を起こした。
数メートルの高さから飛び降りたとは思えない軽い身のこなし。朧に浮かぶシルエット。
んな、アホな…。
「失礼」
「?!」
さっと右腕をとられ、腰をぎゅっと抱き寄せられる。
顔のすぐそばで何かが揺れた。
モノクルの紐飾り。
ホンマか…?
ホンマに、怪盗キッドなんか?!
パシュと射出音がして、キッドがグイとワイヤーの張りを確かめる。
「いきますよ」
「わあぁっ!」
ぐいんと反動があって、体が浮き上がる。ワイヤーが巻き取られる〝シュシュシュ〟という音。
地の底から飛び出した。
とん。足が着く。納屋ん中に立っとる。あっという間や。
小さな窓から夕陽が射し込んどった。
「出ましたよ。大丈夫ですか?」
「え。…おお」
「服部探偵、頭を打ちましたか」
口ごもっとる俺にキッドが微笑む。
あかん。思いも寄らぬ怪盗の登場に、俺としたことが心臓跳ね上がっとる。
「キッド、おま…、なんでここに」
話せば長くなるので簡単に、と怪盗は言いよった。
「私の今回の目的は盗みではなく返却。こちらの屋敷に代々受け継がれていた古文書が、ある時よからぬ連中に盗み出されたのです。しかし代替わりしたばかりの家主はその事に気付いてませんでした。ですからまあ面倒を端折ってこっそり戻してしまおうと……」
「なんでおまえがそないな事を?」
「それはまあいろいろ。で、覗いたら服部探偵が穴に落ちていて」
そら悪かったのう。
「ほんなら俺が追っとる事件とおまえの古文書の件は無関係なんか?」
「ええ。ですが…この屋敷には色々因縁があるようですので、根は一つかもしれませんね。とにかく古文書さえ戻してしまえば関わりはありませんので、私はこれで失礼いたします」
「待て! さっきの声… 和葉や…白馬、親父のも、おまえやったんか?!」
「フフ。服部探偵を目覚めさせるのに、どの声が効くのかわからず、いつくか試させていただきました」
「…………」
「お父上の声がテキメンでしたね」
「うっ……(@@);」
「では失礼」
「待たんかい、キッド!!」
離れようとしたキッドの腕を掴んで引き寄せた。
「礼や、受け取れ!」
振り向いたキッドにぶちゅっとキスをかました。キッドの目が真ん丸になる。
「服部探偵……」
「なんや。足りんか」
「いえ…。お気持ちは十分に」
パトカーのサイレンが聞こえてきた。
ポンと音がして、目の前が煙幕に包まれる。
「キッド!」
『今度こそ失礼しますよ、西の高校生探偵くん。これに懲りたら、以後ご無理なさらぬよう……』
「キッド!!」
大声で呼んだら、うわん、と唸るような耳鳴りがした。
煙とともに怪盗は姿を消した。
俺は気を取り直し、現れた遠山のおやっさんら府警と合流した。
俺を突き落とした犯人に屋敷のカラクリ部屋を利用した殺人トリックを解き明かして突きつけ、俺は俺で自分のカタを付けた。
「ところで平次くん、工藤くんはおらんのか? 君が犯人を特定したから急いでくれと、彼に連絡をもらったんやが」
「え?」
「平次くんの親友やろ、東の高校生探偵。平次くんが一人で深追いして危険やからと心配しとったで。ええライバルやなァ」
「ハハ…。も一人別のライバルとは会うたんやけど……」
てか、ソレほんまの工藤やのうて怪盗キッドやから。
「別の? 」
訊き返したおやっさんの声が不意に遠のいた。うわん、と耳鳴りがして、目の前が暗くなる。
ホッとして気が弛んだんやろか……、急激にガクっときよった。
うわん、うわん、と繰り返す耳鳴りに、キッドの声が重なる。
─────これに懲りたら無理はなさらぬよう。
うっさいわボケェ。
最後に呟いて、俺はその場に倒れ込んだ。
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新幹線に飛び乗って、ガラ空きの自由席に座り込んだ。
大丈夫だったかな、服部のやつ。
千影さんに〝東尾家終了〟とメールで報告し、座席の背を倒して伸びをする。
やれやれ。あといくつあんだろ、ファントムレディの返却物。日本に戻ってきて自分で返せってんだよなぁ…。
目を閉じる前に、服部の不器用な〝お礼〟を思い出した。
痺れるような唇の感覚が蘇っていた。
20130401
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※平次くんとキッド様のちょこっとドキムネなシーンが書きたかっただけなんです(汗)。平次くんが追っていた事件もキッド様の〝返却〟についても、詳細省略です……スミマセンッ(@@);;;
[6回]