黒の鎖《3/3》(新快前提 ××→快斗)R18
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「解除コード教えて。言わないと嫌な思いをするよ」
「ふざけんな! 離れろ、バカヤローッ!!」
悔しそうに歯を噛み締め、突き刺さるかと思うほどの視線でぼくを見上げる少年。
────はじめから、こんな事をするつもりだったわけじゃない。
埒が明かない現状を別の角度から打破できないかと綻びを捜し続け、やっと見つけ出し、狙いを定めたのがこの〝黒羽快斗〟だった。
ターゲットの工藤新一をより深く探り確実に追い詰めるための〝素材〟。
もっと簡単に扱えそうな者が他に複数いたにも関わらず、ぼくがこの少年を選んだのは何故だろう……。
この少年が〝異質〟だったからか。
工藤新一を取り巻く人間達の輪の中で、明らかにこの少年だけが〝特別〟だった。工藤新一と一対一の、他者を交えない特別な相手。そう思われた。
興味を引かれ────気になりだし、そして今は目の前のこの少年に、はっきり惹かれている自分を自覚する。
この少年が持つ強さと未熟さの両方に。
はだけたシャツから覗く若く素直そうな肌。
こんなに怯え、こんなに肌を震わせているのに、口を割る気はないという意思表示なのか、衣服を奪い去り体を抱え上げても、もうさっきのように抗おうとはしない。
しかし指を這わせると顔を歪ませ喉の奥から覆いきれない抑えた悲鳴が漏れた。
堪らない。
────なんとも言えないほど、欲情する。
こんな気分は初めてだ。
「嫌なんでしょう。我慢するつもり?」
吐く息まで震えているのに、黙ったままぼくを見つめる黒羽快斗の瞳は動かない。
「何のために我慢するのかな。工藤新一のため? それとも……他に知られたくない事でもあるの」
問いかけても眼差しに変化はない。よほど嫌われたようだ。致し方ない。そういう役回りだ。ため息をつく。
「もう一度だけ訊くよ」
ぼくは黒羽快斗の携帯を見えるところに置き、ゆっくりと言い聞かせるように問いかけた。
「ロックの解除コードは?」
「…………………b…a…」
「え?」
「k…a………8、6、0」
唐突な返答に逆に驚いたが、頭の中で繰り返してみるとそれがただの語呂合わせであると気が付いた。
〝ばかやろう〟
最後の抵抗とばかりに、ぼくを嘲るように微かに哄う少年。呆れて肩を竦めた。
「仕方ないな、キミは」
「……こんなカッコさせといて……答えたら、やめんのかよ」
「答える気、ないんでしょう」
その時だった。〝ブブブブ───〟
突然少年の携帯電話が振動し、床の上で生き物のように動き出した。
ハッと、黒羽快斗が息をのむのが分かった。
手を伸ばして携帯を拾い、ぼくは画面を覗いた。
黒羽快斗の絶望的な表情。
唇を震わせ、凍り付いたように自分の携帯電話を目で追っている。
〝910〟
着信画面に出ている数字。
「これ、工藤新一だね」
「ちがう」
かまわずタップした。
『快斗!』
『……快斗?』
『あれ?』
『おい、聞こえてねーのかよ?! 』
聞こえてくる、若い男の声。
ぼくは携帯を切らずにそのまま床に置き、黒羽快斗の脚を抱え上げた。
そして全身を戦慄かせ茫然とぼくを見詰める少年の体を探り、そのまま奥を貫いた。
ぼくは、どうしてしまったんだろう。
ぼくに穿たれ突き上げられて苦痛と屈辱にもがく少年。
こんなことをして、なにを〝探る〟というのか。
脅そうと、傷つけようと、逆らう相手は稀にいる。情報を得られないと解っているのに、ただ襲うなんて意味がない。情報を得るための〝脅し〟だからだ。
なのに、自分はいま何をしている。
思いも寄らなかった衝動に取り憑かれ、これまで築き上げてきたプライドを棄てるような真似をしている。
もっと強く、もっと深く、この少年を犯し、蹂躙し尽くしたいという獣のような欲望。
いったいぼくのどこにこんな獣が棲んでいたのか。
少年の肌に唇を寄せ、口付けてきつく吸い上げながら、その理由(わけ)に心の中で目を向けた。
解っている。
────嫉妬だ、これは。
この少年を、黒羽快斗を……体だけではなく、心から抱き締めることの叶う者。
そうして抱き締めた時、この少年はどんな貌を見せるのだろう。
心から慈しみ合った時、どんな声を上げ、どんな反応を返すのか。
それを叶えることが出来る者への────思いも寄らぬ、激しく沸き立つ〝嫉妬〟だった。
小刻みに揺らしながらふと見ると、紐で縛り上げた少年の手首から血が滲んでいた。指先はすでに紫に変色している。さすがに気が咎めた。本来のぼくの行動から逸脱するにも程がある。
手を伸ばし、脱ぎ捨てた上着のポケットから黒羽快斗の持ち物である折りたたみ型の小さな七つ道具を取り出した。
苦しげに喘ぐ少年の手首を戒めていた紐にナイフの刃を当て、切った。
こんなに鬱血していては指の感覚は当分戻るまい。放しても何も出来はしない。
続けてもう片方も切ろうとした時───ガン、と衝撃に頬を打たれて愕然となった。
ぼくに穿たれた状態のままで、黒羽快斗は自由になった方の腕を振り回し、ぼくの頬を打ったのだ。
「懲りないね…まだ終わってないんだ、大人しくしてなって!」
お返しに頬を張り返した。
背にした一面の鏡に頭を打ち付け、黒羽快斗がぐらりと体を傾ける。もう片方の手首はそのままだ。手が千切れても構わないというなら放っておいてやる。猛々しい思いに囚われて、ぼくは思い切り黒羽快斗に体を打ち付け、さらに大きく揺さぶった。
声にならない悲鳴をあげ、半身を捩った黒羽快斗は────しかし、まだ正気を保っていた。
懸命に動かない指を伸ばし、繋がれたままの手首の紐を解こうとし始めた。届きそうで届かない紐の結び目に震える指を何度も伸ばして。ぼくの動きに邪魔され、それでも何度も。鏡を肌の熱で曇らせながら。
がくりとうなだれた黒羽快斗を横たえさせた。
はだけたシャツの前を合わせ、奪った衣類で下肢を覆うようにする。
ぼんやり目を開けた少年は、首をわずかに動かしてぼくを見上げた。
さすがに消耗している。起き上がる気力はないようだ。ぼくは自分の身支度を整えると立ち上がった。
「……今日は負けを認めるよ」
「…………」
「結局キミから欲しい情報は得られなかった。推測だけでは、何も報告できない」
「…………」
黒羽快斗の携帯を本人の胸の上に置いた。
「さっきの電話…すぐ切れたよ」
そう言うと、ぼくを見る黒羽快斗の瞳が一瞬揺らいだようだった。
そう────推測や憶測ではぼくの〝仕事〟は成り立たない。だから工藤新一の件とは別に、この少年に訊いてみたいことがあったけれど、やめておいた。
エレベーターに乗って地下のボタンを押した。毛利探偵事務所のすぐ裏にある雑居ビル最上階の、借り手を失ったダンススタジオ。黒羽快斗を拉致してから、まだ二時間もたっていなかった。
自分が傷付けた少年に思いを馳せる余裕はぼくにもなかった。
〝探り屋〟として、早く成果を上げなければならない。
ぼくは車のキーを取り出した。ひとつ大きく息を吐く。
そして自分の歩幅を確かめるように、歩き出した。
20120802
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あとがき (ザンゲ)
後半は〝バーボン〟の視点で押し切りました……(汗)。最初からこんなことまでする気じゃホントになかったんですが(@@);; 昴さんにもさせてなかったのに・・・。妄想爆裂でスミマセン。(*_*;(*_*;
ちなみに今回のお話は単独パラレルで、このブログ内のこれまでの話とのはっきりした関連はナシのつもりです…。
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