明けましておめでとうございます。
本年ものんびりですが更新継続予定です。
どうぞよろしくお願いいたしますーm(_ _)m
あけおめなべ3/4
※快斗くん視点にて
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澄んだ青い空がキレイな静かな朝だった。
工藤と俺、共に迎える初めての新年。二人だけの正月。
…の、はずだった。
ヤツらが現れるまでは。
三が日をのんびり工藤邸に入り浸って過ごすつもりだった俺は(工藤もそうだったと思う)、大晦日は照れもあり、沈黙を避けるように二人してハシャぎまくった。
テレビのお笑い番組を見たり、明け方近くまで推理ゲームやカードゲームをしたりして、眠くて眠くてたまらなくなるまで起きていて、フツーに楽しく年越ししたんだ。
で、いよいよなんとなくそれっぽいムードに向かいつつあるのを互いに意識し始めた元旦の夕刻。
事態は思わぬ方向に転がった。
ピンポーン。
「なんだろ? 宅配かな? オフクロから何か…」
ブツブツ良いながら工藤がリビングを出て行く。
俺は緊張が途切れてホッと息を付いた。間近で工藤と目が合い、ドキドキしていたから。
だが、直後に鳴り響いた〝ポン・ポン・ポン!!〟というクラッカーの音に俺は飛び上がった。
「どうしたんだよ?!」
「黒羽くん、やはりここにいた!」
エッ。
白馬…。なんで?
「明けましておめっとーさん! ほな、お邪魔するで~」
「ま、待て服部!」
西の名探偵・服部平次もいる。
あわあわする工藤を押しのけ、白馬と服部はスーパーの袋やダンボール(鍋セットと表記されてる)を抱えてぐいぐい中に入ってきた。
「今夜はキムチ鍋やで~!鍋奉行はおれさかいなー♪ おいクドー、なにボケっとしくさっとんねん」
「お、おまえら、か、勝手に鍋とか」
「冬休みになったら一緒にメシでもって、以前誘ってくれたじゃないですか」
白馬の言葉に、俺は工藤を振り向いた。玄関扉の脇に立ったままの工藤はブンブン首を横に振っている。
「朝から黒羽に何度もメールしたんやでぇ」
今度は俺がブンブンした。携帯見てねえし。
ボーゼンとする俺と工藤を残し、白馬と服部はさっさとキッチンに向かって行ってしまった。
「快斗ぉ・・」
眉を変な形に落としている工藤に、俺は苦笑いした。
「ま、いいんじゃねーの。正月だし」
二人で過ごせる時間はまたあるさ。という気持ちを込めて、俺なりに精一杯の笑顔で工藤に頷いた。心の中は、そりゃ少し残念というか、チャンスを逃した感があるのは確かだったけれど。
「着火ー!」
服部が大袈裟に振りかぶってコンロに火を点ける。
野菜たっぷり、肉と豆腐もたっぷりのキムチスープの鍋が段々旨そうに煮えてくる。
ソファはリビングの隅に寄せ、テーブルを囲んでそれぞれがクッションに座り込んでいる。
この頃には俺も工藤も若干楽しくなっていた。腹減ってきたし、夕飯の仕度を自分たちでする手間が省けたし。
「それでは乾杯しましょう」
「烏龍茶やけどな」
「ワインなら一本くらい出してもいいけど…」
「オフクロさんに怒られないか?」
飲みきって証拠隠滅しよう、と言いながら工藤が立ち上がる。
「黒羽くん」
「黒羽」
「ん?」
三人になったところで白馬と服部が俺に向かって怪しい笑みを向けてきた。
「なんだよ」
「どこまでいったんや」
「え?」
「僕は信じてますよ、黒羽くん。君を最初に抱き締めるのはこの僕だ」
「・・・・」
バカヤロー、アホなこと言ってんじゃねえよ! …と、ポーカーフェイスで返さなきゃいけないところだった。だが不意を突かれた俺は、言葉に詰まったうえにあろうことか赤面してしまった。
「うわァ赤くなりよったで! 黒羽クン、アァヤシィィイ~ッ」
「ばっ、お、おまえらが変なこと言うからだろ!」
ぐいっと腕を掴んで引っ張られ、横向きに転がった。
眼をぱちくりする。真上に白馬の顔。
長い睫毛とほんのりピンクの頬に一瞬目を奪われる。
「───って、何すんだぁ!」
危うくキスされそうになって焦って体を返して避けた。
「ふふ。冗談ですよ」
「は、白馬、テメー、もしかして呑んでんな!」
近付いたときの吐息にホンノリ酒の匂いがしたのだ。
「少々キッチンにあった日本酒を…スープに入れると肉が柔らかく、全体に鍋がまろやかになるんですよ。ふふふ」
顔はニコニコしているが、目が据わっている。
「服部、コイツどんだけ呑んだんだよ!」
「ほんの一口や、そやけど空きっ腹に染み渡るっちゅーのかなぁ」
逆サイドの服部に寄りかかったところで今度は服部に肩をグイッと引き寄せられた。
「明けましておめでとさんのチューやでぇ」
「わぁっ」
アブねぇ。
慌てて仰け反ったが、テーブルを押してしまい、ガタンと火のついた鍋が揺れた。チャプンと赤いキムチスープが跳ねる。
「こら何やってんだ、おまえら。白だけど、これでいいか?」
工藤がワインとグラスを手に戻ってきた。
「カンパーイ」工藤がにこやかにグラスを持った手をあげる。
「今年もよろしくお願いするよ、キミたち」
「ナチュラルに上からだな、てめー」
「ハッハッハ。しゃあない、今日は無礼講や。堪忍したるわ!」
ワインをグビリと飲み込むと、喉から胃に落ちていくのがハッキリ判るほど熱を感じた。
「染みるな~」
「おう、こりゃ利くのぉ!」
「美味しいです。さすが工藤邸のワインセラー」
「ひっ」
工藤の奴、最初の一飲みでしゃっくりあげてやがる。
キムチ鍋は美味かった。
鍋奉行を名乗るだけあって服部の箸捌きや肉や野菜を追加するタイミング、スープを足すのも仕上げの餅投入までばっちりだった。
お腹いっぱいになるって幸せなことだ。
正月っていいな。普段会えない奴ともこうして屈託なく一緒に過ごせる。
ほんの少し、まだ〝工藤と二人きりの正月〟に未練はあったけれど。
酔ってハイテンションになった工藤が調子っぱずれの歌を歌い出す。大晦日にテレビで流れてた曲だ。服部も割り箸で皿を叩いて一緒に歌う。工藤よりかましだが、大差ない。
白馬は変わらぬペースでもくもく食べ続けていたが、不意に〝うっ〟と口を抑えて立ち上がるとヨタヨタしながらリビングを出て行った。吐くのかな。モッタイネー。
あ~食い過ぎだぁ、苦しい、と嘆いて俺はバタリと寝ころんだ。自分の体をどくどく血が巡っているのが判る。
鍋の火は消えてるし、取りあえずこのまま一眠りしちゃおうかな。
白馬のやつ、すました顔して戻ってきやがった。工藤と服部の下手くそな合唱を聴きながら、俺は眼を閉じた。
自分が半端ない笑い顔をしてるなと、思いながら。
20150103
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※うう、正月早々のupを目指しましたがすでに3日! 今年は休みが短くてかなしいよぉ~(T_T);;
[7回]